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[コメント] イングロリアス・バスターズ(2009/米=独)

はっきり言ってこの映画は内容的にはとにかく空虚だ。だけど、作り手の方がその薄さを自覚して楽しんで作ってるから、逆に楽しくなりました。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 楽しい企画映画『デス・プルーフ in グラインドハウス』以来沈黙していたタランティーノ監督の新作。てっきり『グラインドハウス』の嘘企画実現のために奔走してるとばかり思っていたが、こんな作品を用意していたとは。この人が歴史を描こうとするのは多分初めてのこと。ただ、タランティーノが歴史?と考えると、最初からマイナス要素しか感じられなかった。ろくなもんにならないだろう。と言うのが私の最初の思い。  ところがまあ、これがとんでもない思い違い。別な意味でぶっ飛んでいて、これはこれで私的には「あり」な作品に仕上がっていた。

 歴史を扱った作品というのは、普通歴史的事実と言うものを重要視するものだ。特に戦争ものになると、様々な意味合いを加味して、歴史的整合性を大切にし、隙が出ないように作るのが通常の方法。私のような嫌味な人間だっているのだ。完成度を上げるためには細部に手を抜いてはいけない。更に人種問題を扱っているのだから、細心の注意を必要とする。その前提が“普通の監督”にはあるし、それに縛られた作り方をせざるを得ない。

 ところがタランティーノは、そんなことを全く顧慮してなかった。彼にとって歴史なんてものは、いくつもの素材の一つにすぎない。だから歴史的な整合性なんてものは意味を持たず、ただ面白いので、歴史というアイテムを使ってるだけ。

 一旦それが分かってしまうと、ツッコミは無用。作り手の方がハナッからそんなもん顧慮せず、隙の多さは折り込み済み。それを無視して楽しめる奴だけが付いてくればいい。と開き直って作ってるのだから。

 その部分を超えてしまったら、やけに楽しくなってきた。

 歴史という部分を除いても、本作はいろんな意味で隙が多い。アルドとショシャナという主人公からして、実際は何にも描いてないし、ナチスは全員ステロタイプの悪人だし(嫌らしい人間はとことんまで嫌らしく、ヒトラーは馬鹿だし、兵士達は全員ゲルマン魂の持ち主)、ユダヤ人はナチスを殺すためなら身を犠牲にしても構わないと思ってる奴らばかり。出てくるキャラは全員見た目が全てで内面など存在しない。そもそもバスターズの面々が何故捕まりもせずに好き放題にナチスを殺しまれるのか、その理由そのものが全然語られてない。歴史的整合性以前に真面目に映画を作ろうって考えるなら、マイナス面だらけ。

 だけど、これらの隙こそが本作をストレートな痛快作品として仕上げさせているのも事実。

 たとえばこれがスピルバーグだったら、それ以外にいろいろなものを詰めようとするだろう。傑作戦争映画『プライベート・ライアン』(1998)では、単純に戦争を描こうとするだけでなく、戦争をやってることの馬鹿らしさも入れるし、キャラの内面を掘り下げてヒューマンドラマとしても完成度を上げている。一本の映画に様々なメッセージを詰めてきちんとバランスも取る。スピルバーグが超一流と言えるのは、その点にある。

 一方タランティーノの場合、そんな内面的なバランスは全く顧慮しない。内面なんて考えない。見た目全てで、格好よければそれで良いのだ。自分の好きな要素を全部詰め、そしてそれをサービス精神たっぷりに面白く仕上げてくれる技術に長けた監督だ。と言うか、ここまで無茶やってながら面白く仕上げられるってだけでもたいした監督には違いない。

 例えて言うなら、スピルバーグが作ろうとしているのは幕の内弁当で、タランティーノが作ろうとしているのは、肉と飯以外全く入ってない焼き肉弁当のようなものだ。それでも全部おいしく平らげられるように工夫がちゃんと出来る。こういう監督がメジャーの中にいるってだけでも充分ありがたいことだ。これに乗れるなら、とにかく楽しめる。「こうすれば格好良い」。本作を作るモチベーションなんてそんなもんだろうし、タランティーノの場合はそれでいいのだ。この人はこういう人だし、こういう風にしか作れない人なんだ。

 好きな要素をたっぷり詰め込んだというのがよく分かるのは、数多くの映画の引用にも観られるだろう。本作はイタリア映画の『地獄のバスターズ』(1976)のリメイクとされているが(未見だが)、やってることはモロにアルドリッチの『特攻大作戦』(1967)だったし、ラストの劇場のシークェンスは、ヒッチコックの『間違えられた男』や『メル・ブルックスの大脱走』っぽさを色濃く残す。特攻精神部分は『ワイルドバンチ』(1969)的な部分も結構入ってるな。オチに至っては深作欣二の『柳生一族の陰謀』(1978)だったし、ワールドワイドな映画好きが作った作品としか思えないところが凄い。多分私が本作を楽しめた理由は、その元ネタが次々に頭をよぎったというところにあるだろうし。

 演出にかけては相変わらず冴えまくってる。多分に借り物とは言え、ラストの劇場のシーンは見応えも雰囲気もたっぷりだし、途中の酒場のシークェンスは見事なソリッドさを見せつけた。敢えてオリジナリティを言うならあのシーンだけかもしれないが、たとえ借り物でも、本人のセンスできっちりまとめてるし、全般的な見応えで言っても良い。

 勿論タランティーノ得意のパーツフェティっぽさもしっかり作られてる(いつもよりは後退してるけど)。この人の描く女性像は、全体像としての綺麗さよりも、目や唇、太股といったパーツに色気をたっぷり付け加える。今回は女性の登場が少ない分、短い時間にたっぷりとその辺を加えているところもタランティーノらしさ。

(評価:★4)

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