[コメント] 黒い十人の女(1961/日)
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本作は一種のブラック・ユーモアなんだが、時代というものを良く捉えており、しかもそれぞれのキャラの魅力を見事に引き出している作品と言って良い。監督の美術性というものは、やはり人を捉えるところにあったのだと再認識させられる。色男故の悩みに捕らわれる船越英二の描写も良いが、静かに静かに、しかし徐々に徐々に狂気の度を増していく岸恵子や山本富士子の描写は見事と言うしかない。
一方、ストーリーはまるで冗談みたいな話が元で、それで本当に人死にが出てしまうと言う展開は、一種ぞっとするものを含んでいる。ただ実際人間関係のもつれなんてのは、端から見てる分には冗談にしか思えないことが多く、その皮肉として考えると、なかなか深いものも感じられる。
それと本作は時代をよく表していると言うこともトピックとして挙げておくべきだろう。終戦から15年。日本は他のどの国よりも先行してメディアの与える役割が強くなっていった時代であり、そのメディアに男も女も踊らされ始めていることがここからも伝わってくる。男の象徴はマッチョや厳格さではなく、神経質な美形で、権力よりもメディアに対する影響力の方が重視されつつある。それは今も同じようなもんだが、この時代にそれをちゃんと見越した演出は卓見。
更にメディアに毒されているというのは、全てが虚構の中にあるかのように考えてしまうこの登場人物の行動にも表れている。恋愛も虚構から始まり、死も又虚構。しかし、男女間の愛情は虚構では終わることがないし、死は不可逆。虚構から始まった物語は、最後に重い事実のみを残していくことになる。そもそも虚構である映画だからこそ、それが映えていく。
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