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[コメント] カールじいさんの空飛ぶ家(2009/米)

「起承転結」が良い作文の原則ならば、本作は「起承転……終わると見せかけてもう一度起承転結!」という豪華な構成。終わるようでなかなか終わらない物語。それはまさに、大人が夢見る人生設計図なのだ。
パグのしっぽ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







もちろん、最初の「起承転」はじいさんとエリーのエピソードな訳で。最愛の人との幸せな物語は過去のものとなり、家は売られ自身は施設に送られて物語の「結」を迎えようというところから本作は始まる。じいさんはありったけの力を振り絞り、家と思い出以外の全てを捨てて旅に出る。ここで重要なのは、じいさん自身もおそらく新たに起承転結を始めるつもりはなかったであろう点だ。顔つきからして頑固で堅実そうなじいさんのこと、風船で家ごと旅をするなどほぼ自殺同然の意気込みで実行したのではないだろうか。じいさんにとっては、旅に出る、そのこと自体が到達点で自身の物語の「結」だったのだろう。しかしひょんなことから旅には仲間が加わり、さらには強力な敵が現れ、しかもその敵はかつての心の師匠だったりしてしまい、物語はじいさんが意図したのとは全く異なる展開を迎え、そしてその過程でじいさんはさらに成長を遂げる。本当は死ぬつもりだったじいさんが、である。「家に風船をつけて飛ぶ」という発想もそうだが、物語全体に「意外性」が溢れていて、これこそ僕らが映画作品や小説などに期待する楽しさの原点なのだろう。そして同時に、自分のこの先の人生にも意外な何かが待っているような気がして、希望を持たせてくれる作品でもある。

全体としてはすごく楽しい作品ではあるのだけれど、細部を見ると少し無理矢理な印象を残してしまうのがとても残念だ。特に敵役であるマンツの扱いについて。マンツ、殺されるほど悪いキャラクターではなかったように感じるのだが、どうだろう?来訪者に対する過剰な反応はあるものの、彼がそうなってしまった経緯を知る私としては彼の気持ちは理解できるし、彼にも名誉と心の平穏を回復する結末を与えてほしかったと思う。飛行船を強奪して良しとするのもちょっとアレだ。また、ワンちゃん達が人間並みに大活躍しているのも、もう少し裏付けがほしかった。まぁ、おもちゃの人形が走り回ったり熱帯魚が大海原を大冒険するピクサー作品なので目くじら立てるもの大人げないのだが、本作に限っては非常に大人好みの作品に仕上がっているだけに、そういう細かい点も少し大人になってほしかった。それは、ピクサー作品がジブリのように「大人も見るアニメ」として日本で評価を得る上で、絶対に避けては通れないハードルなのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)りかちゅ[*]

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