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[コメント] やさしい嘘と贈り物(2008/米)

ニック・ファクラーの演出力が将来にわたる彼の活躍を約束するほどのものかについては判定を保留するが、大した度胸の持ち主であるには違いない。マーティン・ランドーエレン・バースティンの顔面力に拠るところ大きいとは云え、幸福感とサスペンスをこうもぬけぬけと両立させてしまおうというのだから。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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オープニングはティム・バートンのようだ。悪意などというものは一度も持ったことがなさそうに見える善良な作中人物たちにしても、ランドーの感情に同調して点灯するイルミネーションなどの画面内光源の扱いにしても、メルヘンティックな世界の構築は確かに為されている。気恥ずかしくなるほどの純粋な愛の描写についても、馬車のシーンにおける「一枚の毛布を分け合う」といったような細部の設えの按配がうまくいっているから、微笑みとともに受け容れることができる。そしてファクラーはそこに不穏の気配を導き入れ、徐々にそれを強めてゆく。その手綱さばきが成功していると見るか否かが多くの観客にとって評価の分かれ目となるところだろうが、私は成功していると思う。たとえばランドーが自らに拳銃を贈っていたことが明らかになる場面、ここで受ける衝撃は、ランドーが自殺を考えていたということ以上に、「拳銃」というものがおよそこのメルヘン世界には似つかわしくない現実的暴力的小道具であることによる。ファクラーは映画的な演出で処理しようと努めている。

中盤までしっかりと醸成されてきた幸福感は、ランドーが記憶を失っていたことを成立基盤としている。だからアダム・スコットエリザベス・バンクスを加えた四名の擬似家族が本当の家族であったと明らかになったとき、幸福感は切なさに反転する。しかし、そうであったとしても先の幸福感は決して偽りのものではなかったはずだ。ランドーとバースティンの愛に嘘はなかったはずだ。たとえ展開が先読み可能のものだったとしても、それは観客の感情を巧みに揺さぶる演出で描かれていると思う。

(評価:★4)

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