[コメント] 密会(1959/日)
カメラが止まると、今度は画面奥に、何か白い物体が映る。人か。2カット目は、左に伊藤孝雄、右に桂木洋子が仰向けに横臥している。二人とも、シャツ、ブラウスの前がはだけ、下着が見えている。こゝから、10分近くの長回し演出になる。何度もキスしたり、体をまさぐったりしながら、会話を続ける。あまり説明的にならずに、上手く2人の設定や環境を分からせる。極端に云うと、こゝだけの映画と云ってもいいぐらい、この冒頭は突出したシーンだ。画面にライトが入り、オフで車の音が聞こえた瞬間に、カットを変える。
伊藤と桂木の2人は、逢引き(密会)していた林の陰から、タクシー運転手の殺害現場の一部始終を目撃することになる。伊藤は学生で、桂木は教授夫人。2人は犯人の顔もバッチリ見ているのだが、警察に目撃証言すると、特に桂木の社会的地位が失墜する。しかし、伊藤は良心の呵責に苛まれる、といったプロット展開だ。私は、現場で2人の遺留品でも発見されて、警察の捜査線上にも、例えば桂木の存在が浮かび上がる、というようなスリルが描かれることを予想したが、そういった込み入ったことはせず、桂木による不倫に至る経緯のフラッシュバックと、伊藤の精神が不安定になっていく状況が主に描かれ70分程度の尺にまとめられている。
桂木の夫−法学部教授は宮口精二。この人はこういう役もよく似合う。宮口と桂木の家の女中は千代侑子で、声も大きく、ガサツで鬱陶しい。この女中が、上手く桂木を苛立たせる役割を担う。同様に、伊藤のアパートの部屋に同居している妹−峯品子も、兄のことを心配して世話を焼くのは分るのだが、やっぱり、鬱陶しいのだ。彼女の鼻歌(グレン・ミラーの「茶色の小瓶」のメロディ)がとても耳障りに感じた。
桂木の回想、フラッシュバックは、料理教室の帰り、新宿駅ホームで気分が悪くなっている際に、伊藤に話しかけられたことから始まる。伊藤は教授の家に訪問したことがあったのだ。桂木を家まで送ってくれるが、屋敷の前の道に犬がいる。以降、料理教室の帰り、送ってくれるようになる。2人が歩くと、必ず、犬が出てくるというのが面白い。2人の初めてのキスも屋敷の前。2階の窓には、宮口の影が見えている。この場面でも、犬が2人にまとわりつくが、犬が左にはけるのをパンしたと思うと、オフで急ブレーキ音が聞こえ、回想前に戻る。すかさず、女中の千代が来て、いつもの赤犬が轢かれた、内臓がぐちゃぐちゃ、みたいなことを云う、この繋ぎはいい。
そして、終盤の梅ヶ丘駅ホームの場面も特筆すべきだろう。人物の視線の演技演出が見事なのだが、それだけでなく、新宿行き急行列車が停車する俯瞰の遠景ショットや、ホームを俯瞰で撮ったショットに、電信柱の上の作業員も入っているという画面造型なんかも含めて、こゝのモンタージュは凄いと思う。収束も予想していなかったもので、驚かされた。しかし、タイト過ぎる展開とも感じられ、あと20分くらい肉付けしていれば、さらに良い映画になっていたかも知れない、惜しい、と思ってしまった。
#備忘でその他の配役等を記述します。
・冒頭クレジットで伊藤孝雄は「(新人)」と付記されている。
・桂木の義姉(宮口の姉)で細川ちか子。夫婦生活のことを聞いてくる。
・伊藤の大学での受講場面の教授は、鈴木瑞穂。
・ニュースでは、世田谷区成城の熊野神社近くの畑に死体、と云う。伊藤のアパートは「梅ヶ丘アパート」。
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