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[コメント] 君は裸足の神を見たか(1986/日)

神に愛される者愛されない者を『白痴』の価値転倒で描いたキリスト教作品。ロジカルで丁寧なホンが素晴らしい。演出は異様に固く日本映画学校好みに見えたが、思えばブレッソン志向なのかも知れず。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







石橋保は画家志望、児玉玄は詩人志望の高校生。詩人は同級からカソリック系に進んだ洞口依子に片想いで、ほとんどストーカーのように追いかけているが性格から声はかけられない。画家は洞口に、詩人に声かけてやってくれ等と相談するが、洞口は画家が好きだった。画家は彼の片想いの相手のフルート娘の肖像画を洞口に見せ、ふたりは関係を持つ。プルースト流の三角関係の機微がある。初潮で道路に蹲る洞口を助けた画家が、洞口の処女を終わらせ、赤い絵の具が強調されている。これからして宗教的な含意だろう。

一方、洞口は云われた詩人に通り声かけてぎこちなく付き合いを続ける。画家からの依頼だったと打ち明けてしまうと詩人は打ち解ける、というこれも三角関係の機微。ふたりで教会に行くワンカットが本作最重要のショットになった。詩人が素朴な詩を口ずさむ辺り実に下らないのだが、下らないと思う観客は映画に斬られているのだろう。洞口と作った詩は新聞に掲載され、画が思うように描けない画家は嫉妬し、洞口にも嫉妬する三角関係。

画家はフルート娘の肖像画を直し続けるがついに描きあげられない。コンクールに出品できず、入賞できなければ土建会社に就職という父親の指示に従うことになる。洞口の家の小売店はスーパー進出で左前になっているが、土建会社は次のスーパーを建設している。経済的にも画家は洞口を裏切る運命を受け入れざるを得なくなる。最後に洞口は一家で町を出てしまう。

洞口は序盤で神を信じないと語る画家に「死んでからどこへもいけないよ」と応え、しかし彼と関係を持つと「宗教なんてくそ喰らえと思っている」と語る。詩人に求婚され、画家との関係を悩む(詩人は序盤、潜在的キリスト者らしく処女性を気にかけている)。詩人の母矢吹寿子と三人での食事風景がいい。母は、応募は一人しかいなかったんだべと笑う。善人を傷つける術はないものかと神に祈る。

「あなたがたは聞くには聞くが、決して悟らない。見るには見るが、決して認めない。この民の心は鈍くなり、その耳は聞えにくく、その目は閉じている。それは、彼らが目で見ず、耳で聞かず、心で悟らず、悔い改めていやされることがないためである」。これはマタイ福音書、イエスが大工の息子じゃないかと故郷で敬われない件。まさにその通りに、嫉妬に狂った画家が膝まづく洞口を責め立て「やってスッキリしたいんだ」とセックスを迫る。画家は神にも嫉妬している。

詩人は求婚以来洞口に無視され、ついに画家との関係を聞かされ、自殺する。脳梅毒で狂った元娼婦と噂され、町をうろつき「病気になる」と揶揄われるサラジーナのような小熊恭子に抱かれたとき、彼女の聖性により詩人は神に愛されて死に、「どこかへ行った」に違いない。工業高校の高圧実験装置で感電死する(大きなパチンコ状の球ふたつの間に高圧電気が流れる)のは、いらない肉体を捨て去る儀式に過ぎなかった。彼は神に選ばれた。

フルート娘の会沢朋子に科白は与えられず、ただサラジーナの落とした花を一輪拾う。彼女もサラジーナの側の存在だったと見事に示している。画家が何度描き直しても彼女を描き切れなかったのは、神に愛されなかったのだった。洞口もサラジーナを悪戯する子供らから救うが、彼女に見つめられて顔を歪ませてしまう。洞口は神と人について中間的な存在で、外国での看護師を希望するなど、アタマでは判っているが、結局は神に愛されない存在だった。

詩人の母に経緯を告白し「許してください」「たぶん死ぬまで許せねえべ。もう帰れ」と泣かれ、「死んでからどこへも行けない」画家は夜の雪の町を放浪し、電車に飛び乗り、窓ガラス拳で割って吹雪まみれになる収束。主役三人が序盤と終盤でまるで違う人になる展開の交錯が丁寧に追いかけられていた。冒頭、フルート娘を窓から画家がぼさっと見ているショットなど異様に固いが、これもブレッソンなのかも知れない。ロケ地は秋田の角館(カクノダテ)町、現在は仙北市。羽後長野駅が使用されている。冬になり出稼ぎの季節労働者がバスで出かける光景が挟まれている。

(評価:★4)

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