[コメント] ロックアウト(2008/日)
突飛な表現による逸脱性を孕みながらも、抒情の訴えを願う作風はSO-SO
イギリス、レインダンス映画祭で最優秀低予算映画賞にもノミネートされた曰くつきの佳作である。映画業界で製作主任として働く高橋康進の私性の怒りが浮き彫りとなったリアルな映画である。本作は、園部貴一の「表情」が利いている。あくびひとつとっても演技の妙に感嘆する実に映画的な佇まいを持っている。しかし、声はどうだろう。天は二物を与えないということか。また、島田岳(子役)の少年期特有の孤独を体現した「声色」も確かな演出に支えられた表現の妙であった。そこにリアルさが生まれ、本作を鑑賞の集中へと促す演出力が垣間見られる。特に印象的だったのは、矢板東交番で、警官に詰問される園部が見せる、子供(島田)へ向かって見せるほくそ笑む表情から、警官へと向ける一転して社会に立ち向かう敵意の表情と変わる演技の転換である。こうした微妙な感情の変化をさらりと描写して見せるところに監督の鋭い人間観察の視点が伺える。本作は、大人と子供のバディ・ムービーという形を取りながら、それぞれに成長していく物語である。広はさすらいの身から自分を取り戻し、彼を待つ彼女の下へと帰る決心を得ることができ、慶太は、過ちを反省し謝るというイニシエーションを手に入れるのだ。両者に跨る男のハードルというものを強く感じさせる作風は、やはり70年代に遡ることができる映画的郷愁がにじみ出ている。高橋監督の映画的記憶に根ざす、男の哀愁、ロマンに、円熟という言葉が付与されるとき、いったいどんな傑作が生まれるか、今後が楽しみな作家である。
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