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[コメント] わが恋の旅路(1961/日)

シネスコの画面左に小紋のような模様が描かれて、その意匠が変わって行く。右側にタイトル・クレジット。和田誠のタイトルデザインとある。ファーストカットは雨の中、道路の行先プレート。江ノ島、逗子、と書かれている。
ゑぎ

 道路沿いの「大海老」というレストラン。カウンターに川津祐介がいる。ラジオで横浜港での女性身投げのニュース。夜10時の時報。川津は店を飛び出し、タクシーに乗る。横浜市民病院へ。川津のモノローグが入って回想シーンに繋がるが、その前に、タクシーの窓を雨が流れ、窓の向こうの川津の顔が歪んだように変化する。ちょっと『冷血』のロバート・ブレイクのショットみたいと思う。

 回想シーンは川津が初めて記者バッチをつけた日。先輩の佐藤慶と、船上で刑事への取材。小さな船で横浜港を移動する。この船のショットはいい。クロスカッティングで月丘夢路が新聞社に訪ねてくる場面を繋ぐ。川津に面会したい。女性社員がビルの窓から運河をやって来る船を見つける。佐藤慶と川津が乗った船だ。こゝは俯瞰仰角の切り返しで見せるが、窓の月丘をズームインする。この後、鋪道を歩く川津を車で追いながら会話する月丘。こゝもいい。この辺り迄、すこぶる快調な出だしだと思う。また本作の月丘も、とても綺麗に撮られている。

 喫茶店「朱印船」の場面。佐藤慶の行きつけの店。女店員たちの中に富永ユキがいるが、もう一人、鏡に映って岩下志麻が登場する。川津のことを独身と紹介されると、富永は、臭い靴下と決めつけるが、岩下は、私洗ってあげると云う。第一印象から、既に好意を持っていたということだろう。岩下の家は弘明寺(ぐみょうじ)と云う。父親は三井弘次で、働かず、競輪と酒に金をつぎ込むダメおやじ。

 川津と岩下は、雨の中、橋の上で偶然出会う。岩下はこれから映画を見に行く。『逢う時はいつも他人』。いつも一人で行く。それは有望だな。映画に一緒に行ってくれる男はいるとも云う。こゝから一気に2人の恋は加速する。山下公園で2人の過去(それぞれの異性の話)について打ち明け合った後、抱き合うが、ティルトアップして星を映すのが、恥ずかしい演出だ。この映画も、メッチャカッコいい画面と、ダサい画面が共存していると感じる。

 2人のデート場面では、伊勢佐木町商店街の不二家レストランなんかも出て来るが、夜、山手の西洋人の邸に勝手に入るシーンが重要だろう。白い板の屋根のある門。こゝは大胆な岩下。なんか岩下のキャラの一貫性にも難がある。大きな庭に子供用自転車、芝刈り機。洋館の部屋には帽子とライフルが飾られている。2本の欅(けやき)の木の陰で、2人は抱擁する。次に、芝生に横臥している2人を繋いだのは、そういうことだろう。こゝは、寺山修司らしさだろうか、詩的な会話シーンになる。

 さて、この後、岩下に横恋慕している資産家の息子−渡辺文雄が登場し、父親の三井を懐柔したり、さらに岩下が事故に合い、記憶喪失におちいったりという、ちょっと酷いメロドラマの展開になるのだが、仔細は割愛する。特記すべき場面を少しだけ上げておくと、川津が月丘を訪ねて、無心するシーンで、月丘は「トッカータとフーガ」をかけ、ベタに悲壮感を演出するのだが、このシーンの終わりにレコードプレーヤーへパンするというのは、本当にダサい演出だと思った。あと、岩下の記憶喪失の治療シーンで、医者の穂積隆信が、注射しながらインタビューするシーンは面白かった。穂積の口調の神妙さが面白いのだが、岩下は記憶が混乱しており、自分で勝手に作った記憶を語るのだ。愛し合っていた夫と、子供用の自転車や草刈機、帽子を飾った部屋のある家に暮らしていたと。川津は、作り上げられた夫との記憶に自分は勝てない、と云う。ラストは、山手の洋館の庭をロングショットでおさめ、ズームアウトして、全景を見せる。斜面の中ほどにある洋館の全体像が初めて示されて驚かされた。これは良いラストショットだと思った。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・川津はパトロンの月丘にドイツ語を教えていた。月丘の夫は北龍二

・渡辺の父親は山村聡。渡辺は悪い人物ではないが、山村は傲岸不遜な人。

・三井が勤めていたスカーフの染め物工場の工場長?で浜村純

・ジャズライブをやっているバーのシーン。壁には『アラモ』のポスター。

(評価:★3)

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