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[コメント] KISS&KILL キス&キル(2010/米)

原題はドン・シーゲル殺人者たち』あるいはロバート・シオドマク殺人者』を意識しているのかしら。んで邦題『キス&キル』はスタンリー・キューブリック非情の罠』の原題を彷彿とさすなあ。などと云い出すのは決まってひねくれ者で、これは素直に『ナイト&デイ』にあやかろうとしたものでしょう。
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**ネタバレ注意**
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ロバート・ルケティックとのコンビで撮られた前作『男と女の不都合な真実』を見てたちどころにキャサリン・ハイグルのファンになってしまった私には、これもまたとても満足のゆく仕上がりの映画だ。アシュトン・カッチャーではトム・クルーズの足下にも及ばないにしても、ハイグルならキャメロン・ディアスに対抗しうるだけのポテンシャルを持っていると思う。ディアスもたいがい親しみやすさを売りにしたようなスターだったけれども、ハイグルの魅力はそれに輪をかけて庶民的なところだ。一度好きになってしまうと、その表情や所作のひとつびとつまでもが堪らなく愛おしくなる。序盤のレストラン・シーン、父親から隠れようとテーブル下に屈むところでカッチャーに見せる笑顔なんて本当に素敵だ。単純に私のルックス的な好みを云えば、そのシーンを含めて、ロング・ヘアを披露したニースのシークェンスが特に可愛らしくていい。

また、アクション・シーンの設計力に限って云えば、ジェームズ・マンゴールドよりもこちらのほうが明らかに優れている。もちろん、素人ハイグルを巻き込んだ有機的なバディ・アクションが一向に実現しないあたりは何ともつまらないし、即物的にアクションを描きながら夫婦の関係性を彫り込んでいったサム・ペキンパーゲッタウェイ』は夢のまた夢であるとは云え、この映画には住宅地活劇・オフィス活劇を組織すべく演出家の創意が注ぎ込まれている。たとえば、カーチェイスの末にロブ・リグルを葬り去る場となる工事現場だか造成地だかはとても面白いロケーション選択だし、ちょいとスカーレット・ヨハンソンをスリムかつ知的にしたようなキャサリン・ウィニックとカッチャーの格闘シーンも、腕で壁を突き破ったり鹿骨インテリアで無惨な最期を迎えたりと、全篇を通じて細部のアイデアおよびラッセル・カーペンター撮影は近時のアクション映画の水準を越えている。

リグルをはじめ悪人ですらなさそうな間抜け面の友人・隣人たちが命を狙ってくる、という阿呆らしい筋立ても、「郊外の危機/恐怖」というアメリカ映画の主題をアクション映画的に解釈したものと見ることもできて(このあたりの感触はエドガー・ライトホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』に近いですね)、これもまた一点突破力に長じてクラシカルな『ナイト&デイ』とは違う魅力だろう。

(評価:★4)

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