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[コメント] 太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男(2011/日)

戦陣訓を相対化する籠城兵を描いて興味深いが、痒い所に手が届かず竹野内豊の格好いい大尉の話になっちゃった。日米軍事同盟の長期勤続表彰みたいでもある。狐と呼ばれては本人も形無しだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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サイパン戦。米軍は上陸し日本軍はタッポーチョ山に逃れた。大本営はサイパンを放棄、その事実を知らされないまま日本兵は戦い続けた。米軍入場とすれ違う日本の避難民。「一期一会」とか呟く日本に留学経験のある米大尉は、「将棋の駒は取ったら味方になる」という日本人論をを以降も繰り返す。

洞穴で中将ら自決「天皇陛下万歳」とハラキリして後ろから射殺。下っ端はバンザイ攻撃。これはよく撮れていて、突撃ラッパから壕での一対一の揉み合いに至る泥臭い戦闘に日本軍のヤケッパチな感じがよく出ていて哀しい気持ちになる。日本軍は負けるが死屍累々のなか竹野内は生き残り、野戦。途中、軍民混交部隊と遭遇、計186人が野営。

米兵を殺したいんですと井上真央は遺体に鎌を打ち下ろし、唐沢寿明はお馴染み軍隊小唄(厭じゃありませんか軍隊は)唄いながら米兵を100人殺すと宣言している。後に唐沢は戦死し(彼はカッコ良過ぎたかも知れない)、井上は収容所で看護を手伝っている。米から民謡使った投降勧告の放送。4カ月経ち米は一週間の掃討命令、逃げる日本人。投稿ビラ。

糧秣尽きて狐は民間人だけ降伏の選択をする。部下には米軍は彼等を殺すと反対する者もいる。一方、民間人の長ベンガルは「正直ほっとしています」と云い残して去る。ここには、兵隊たちのツッパリに付き合っていた、というニュアンスがある。大正生まれと思しきベンガルは、軍人訓を相対化する理性があったように見える。

ススペ収容所で敗戦。敗戦との情報が入っても玉砕するんだろ、と決めかねて投降できないのがリアル。自害しようとして果たせぬ若年兵見て戦慄する狐。512日戦った。生きて虜囚の辱めを受けずという指令は民間人をも酷い目に合わせた。しかしこれを日本人の誇り高さだとアメリカが配慮する本作は、『硫黄島からの手紙』と同様の、日米軍事同盟長期勤続へのアメさんからの報償のように見える。原作邦題「敵ながら天晴」は本音丸出し、「将棋の駒は取ったら味方になる」訳だ。これほど「天皇」「天皇」と日米双方が連呼する戦争映画は本邦21世紀では珍しく、その点は好印象。

(評価:★3)

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