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[コメント] ブラック・スワン(2010/米)

足から始まる映画の系譜。バレエダンサーの踊る足から始まる。これは足の映画なんだな、と思う。この冒頭はナタリー・ポートマンの夢だった。夢から始まる映画でもある。
ゑぎ

 母親−バーバラ・ハーシーとのやりとりを経て、通勤シーンで、電車の窓に映った顔の演出がキャッチする。本作は鏡の映画でもある。レストルームの鏡。化粧台の鏡。鏡の破片は刺すためにある。そう、何よりも傷、裂傷の映画だ。背中の右側の引っ掻き傷、足の親指、手の指のささくれ、ウィノナ・ライダーーの脚、あるいは頬、ヴァンサン・カッセルの唇、ポートマンの腹部。しかし、裂傷イメージの多くは幻覚−夢でもある。それは、人物の入れ替え、すり替え、ドッペルゲンガーとして現れる。リリー−ミラ・クニスとポートマン。ライダーとハーシー。

 本作もドラマ部分のカメラワークは、ほとんど固定ショットの無い、手持ちのドキュメンタリータッチで一貫した撮影だ。そんな中で、バレリーナの回転運動をとらえるカメラの回転運動も凄いレベルだと思う。あと、ポートマンがベッドで股間に手を当てている場面で、唐突に部屋の中にハーシーがいることを気づく見せ方が、目を引く。2カットのポン引き(カット・ズームアウト)で表現されているのだ。これも効果的な演出だと思う。

 また、母親−ハーシーの偏執と癇性の描写も上手いとは思うのだけれど、お祝いのケーキをゴミ箱に捨てようとする場面なんかが顕著だが、ちょっとワザとらしくも感じる。あるいはカッセルの役割は私には中途半端に思う。特に、セクシャルな側面で、彼は結局、手淫を示唆するにとどまるといった点。

 そして、ブラックスワンの出現の表現については、私はかなりゾクゾクした。そりゃあダンス自体の変化・進化で見せることができたなら、もっと良かったのかも知れないが、さすがに無い物ねだりというものだろう。この黒い羽の造型は、スペクタキュラーだと思う。ともかく、本作は隅から隅まで御伽話という感覚の映画だ。もっとも、他の作品の感想で何度も書いておりますが、あらゆる映画は(それはドキュメンタリーというジャンルでも)、御伽噺だと私は思っています。

(評価:★3)

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