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[コメント] トランスフォーマー ダークサイド・ムーン(2011/米)

「ベイ軍による、ベイ軍のための映画」最終章。
Orpheus

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







先日の『SUPER 8 スーパーエイト』もそうなのだが、スピルバーグ製作の映画やマイケル・ベイの作品に「派手な映像・音響体験」以外の何かを期待するほど自分はイノセントではない。したがって「サムが美女カーリーに飼われていたのはセンチネルを復活させるための遠大な計画ってことで」とか「敵を欺くにはまず味方からだろ?…じゃあオートボットを地球から追放ってのはどうだ」といった穴だらけでご都合主義の脚本にも「ハリウッド、あいかわらずバカですね?」という感想しか抱かない。むしろ興味があったのは、9.11以降、破壊や暴力に対して自制心を完全喪失して思考停止に陥っているハリウッドが(あのイーストウッドでさえ、VFXに頼って強烈な津波シーンを描くようになってしまったぐらいだ)、米軍との密接なコラボレーションで成り立っている本シリーズ(子供向けのおもちゃ映画を装いながら、実際は米軍の最新兵器のデモンストレーション映像のオンパレードになっていることは、第1作『トランスフォーマー』の拙レビューで指摘した通り)をその後どのように展開させていくのだろうかということだった。この20年間でインターネットが世界を覆って「リアルタイムで刺激あるもの」がますます重視されるようになり、またツィッターやUstreamのような一般ユーザー参加型のメディアが登場したことで情報はより日常なもの、身近なものにフォーカスされつつある。そうした状況で起きるのは、おそらく過去の軽視による我田引水的な歴史の改変だろう。先日、キューバ危機をネタにした『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』を観た時に真っ先に感じたのは「まさにそうしたことが起こりつつある」という実感だった。そして本作。こちらも有名なアポロ計画を下敷きにしているが、米ソの宇宙開発競争の根底にあった「大量破壊兵器(核兵器の威嚇)による世界の支配」という負の歴史には蓋をして話は進んでいく。しかも、映画の中で女役人が言い放つ「大量破壊兵器は禁止」という台詞は、米国と米軍がイラク戦争を正当化するために、何度も繰り返し使った言葉ではなかったか? チェルノブイリ原発のエピソードもそうだが、フィクションとはいえ、娯楽映画の理由付けのために、多くの犠牲者が出た(そして今も出ている)歴史を切り刻み、弄ぶのも大概にしろと言いたい。

(評価:★1)

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