[コメント] 大いなる遺産(1946/英)
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あまりに、あまりにディケンズ的な、アクの強いキャラクターたち。決して立体的でも複雑でもないフラットなキャラなのだが、それぞれにしっかりとした象徴性が与えられ、それが物語の中で絶妙に機能してくる。そんな人物たち。
実の親から引き離されて以来、真の愛情を注がれることもなく、造花のように空ろな美として育ってしまったヒロインなんかは、その最たるものだと思うし、復讐を糧として生き長らえ、炎で灰になる過去の亡霊のような老婆なんかは、それこそ「あれは人間ではない」と言われても全く驚かない、と思う(笑)。真の恩人のあのオヤジだって弁護士だって、決して等身大ではない、かなり怪物的なキャラだと思うし。それでも物語の中では不可欠なキャラであることは、言うまでもない。
スノビッシュな成功を追い求め、結局そんな生活を支えていたと思われたものが幻想であったことがわかり、その代わりに彼を真に支えていたものを知った瞬間から、彼の人生の価値観に新たな光が差し始める。そんなピップの遍歴を縦軸として、様々なキャラたちが絡み合う。ストーリー・テラーとしてのディケンズの美質が、十二分に堪能できるお伽話だと思う。
それにしても背景や小道具がまたいちいち象徴的。墓地や沼地、光を当てた瞬間妖気が消え廃墟と化す過去の館、さらには帽子や炎や光の扱い、等々々・・・。なにぶん原作が未読なので、どこまでが忠実なのかは分からない。が、少なくとも物語の中での象徴性をしっかり踏まえた上で、実に魅力的に視覚化してくれていることは確かだ。
しかしその秀逸な映像が決して物語のテイストを逸脱しないところが、逆に保守的でオリジナリティに欠けるという意見があっても、それはそれで分からなくもない気もするが・・・。何はともあれ、ディケンズ本人が生きていたら是非コレは見せてあげたいものだ。
追記: 文中でエラそうに「ディケンズ的」と連呼してしまったけど、実はそれほど思い入れのある作家ではなく、実際読破しているのが「デイヴィッド・コパフィールド」と「骨董屋」、それと短編少々・・・。「それだけでディケンズを語ろうとは、フテえ野郎だ!」なんてことだとしたら、恐縮至極デス(汗)。
(2002/11/26)
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