コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ヴァンパイア(2011/日=カナダ)

映像が相変わらずみずみずしい。どのシーンを取っても洗練されている。題材的には猟奇的な、目もそむける映画なのに、ファンタジーでさえある。岩井独特の詩がそこにある。詩とは死であり、ポエムであり、感情なのだ。そして青春でもある。
セント

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







自殺志願の女性をうまく連れ出し、狂言心中をしながら女性から血を抜いてそれを飲む。しかし本当のヴァンパイアになれない男は若い女性の血を体内に取り込めず吐き出してしまう。滑稽なのに笑いが浮かんでこないシュールなシーン。

白い大きな風船を体に何個も巻き付け浮遊しようとしている認知症の母親。部屋から出られない防御策だが、母性は完全には消えていなかった、、。映画を観終わってあの美しい白い風船がやけに残像として印象に残った。

男はなぜこういうことをするのだろうか、、。映画は答えようとしないが、死に魅入られた女性に対してのみ興味を湧く哀しい現代人の様相を岩井は執拗に掘り下げる。生きる力を失った現代人。かと言って一人で自殺さえできない弱過ぎる彼ら。死が一番優しいと感じる彼ら。

ヴァンパイアになり切れない男は死を通じて同じ感性を感じそういう女性たちに愛を感じてゆく。現代人はどこに行くのか。どこに行こうとしているのか。行くところはあるのか。

男は、何たることか、自殺未遂の女性に自分の血を輸血する。捧げる。他人の血を抜くことしかしなかった男が他人に血を与えるのだ。血を通して初めて女性と通じることの喜びを感じる男。

けれど彼の前には犯罪の決着という現実が待っていた。

うーん、何と美しい物語であることか。僕は酔っている。岩井のその純粋な美を求める心に酔っている。岩井は8年ぶりの映画に自分の純粋さだけを培養して肉付けした。彼の作品の中でも並々ならぬ傑作であろうと思う。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。