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[コメント] 最初の人間(2011/仏=伊=アルジェリア)

成功した文学者が生まれ育った植民地を訪れるという自分探しの映画です。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







幼くして戦死した父親の墓。ほとんどだれも訪れなかったかのような荒れ方。優しくほこりを取り除く男。出身大学の特別スピーチをするが、植民地政策の是非と国家とは何か、で逆に論争を呼ぶ羽目になる。

しつけの厳しかった祖母。生活のために学校も行かせてくれそうになかったが、特別に担任の助言で上級できたこと。母親に若い男の影を見、哀しむ子供心。優しかった叔父も本土へは戻らずアルジェリアに骨を埋めるという覚悟。

アルジェリア人の友人は息子が不当逮捕されたと男に頼ってくるが、息子は政治姿勢を曲げず処刑の血を流す羽目になる。

すべて静かなその目でアルジェリアとフランスの国を見て来た母親もアルジェリアに残るという。男はエリートで文学で成功した人間だが、母親も伯父もすべて貧しく未だ息子の新聞記事も読めない文盲だ。息子の弾劾されたときの顔を新聞の写真欄で発見し、元気そうでよかったとポツンという。

静かな映画である。人と人との共存は果たしてできるのか。国家とは。政治とは何か。そもそも人間とは何か。人間の営みは一体全体何なのか。

今ある自分は何なのか。映像で強烈に画面から僕たちに訴える。

しかし解決はない。茫洋とした遠い方向を見る憑かれたような母親の顔をクローズアップにこの映画は終わる。

人間は今も昔も同じことを繰り返し行っている。カミュの亡くなった50年前とどう世界は変わってきたのか。国家主義はどこの国でも蔓延っている。一体、人類全体の共存という闘いのない世界がいつか来るのだろうか。

原作も未完である。映画はしかし過去と未来を見据える視線を残す。人間とは一体何をしてきたか、これから何をしてゆくのか。そんな大きなテーマを抱えつつ回答を僕たちに預ける大きな映画でした。

(評価:★5)

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