コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 相馬看花 −第一部 奪われた土地の記憶−(2011/日)

そこには、もう子供が一人もいない。それは土地の歴史が途切れたということを意味する。時が止まったような状況と風景に、いささかベタなくらい花の画が挟まれ、被写体の背景には花が写し込まれる。松林は、無意識のうちに生の息吹を求めていたのかもしれない。
ぽんしゅう

地元の人たちは松林要樹のカメラをごく自然に招き入れる。それは、自分たちの身に起こったことの大きさに戸惑いながら、現状を一人でも多くの人に知らしめ、その理不尽さを誰かと共有したいという、地震と津波と原発事故のトリプル被災者の無意識の意志のがそうさせたのかもしれない。

原発で働いていたことを自慢げに語りながら、その後ろめたさからか避難を拒む老夫婦の遠慮に、南相馬の地域コミュニティーの濃密さと複雑さが見える。原発が誘致されたいきさつと、その意味を十分吟味していたはずなのに、結局は何も理解していなかったことに気づいた引退した老市会議員の茫漠顔に、国家と生活者のギャップが見える。ささやかな茶会につどう避難民たちの屈託ない笑顔と、東京で繰り広げられる反原発デモが発する画面の温度差に、人のつながりという「言葉」の疎と密が見える。

気負いを周到に排除した松林のカメラ(視線)は、被災地ではなく、被災者の心に入り込んでいく。その向うには、普段は見えない「普通に生活すること」の奥深さが見えてくる。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。