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[コメント] 大統領の執事の涙(2013/米)

フォレスト・ガンプ』が(たぶん敢えて)避けた話題をしっかり映像化してくれた。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ホワイトハウス付きのアフリカ系執事が主人公という、これまでに無かった視点でアメリカ史を見直しているため非常に新鮮で、全く違った切り口で歴史を見ることが出来て大変面白かった。

 それで本作は存分に世界大戦後のアメリカというものを描いているのだが、中心点が存在する。

 それは主人公がアフリカ系ということで、公民権運動の歴史というものが中心になっている点。

 『フォレスト・ガンプ』は公民権運動に関して一切描くことがなかったため、不完全さが目立っていたが、それに本作を合わせることでしっかりと歴史を捉えられるようになっている。

 本作に限らず、公民権運動に関しては他にもいくつか映画になっているが、特にキング牧師とマルコムXの全く違ったアプローチを比べる作品は少なく、本作はその間を上手く取り持った話になってるところも本作の見所の一つだろう。

 また、公民権運動もいろいろな負の歴史が存在する。それまで虐げられてきた人たちが立ち上がると言う事は、時に暴力に訴えることもあれば、時に意見の対立から内部での紛争も始まる。むしろそう言う過程を経なければ自由を獲得したことにはならない。本作は、その部分もしっかり描いている。

 そう言う意味では大統領に仕える執事というのが立場的にはぴったりだろう。教育も満足に受けられなかった少年時代を経てきたとしても、歴代の大統領の言動や悩む姿をすぐ近くで見ているセシルの立場としては、理想論や暴力傾倒は子供じみたわがままな主張に過ぎない。同じアフリカ系であっても、既に立場は異なっているのだ。

 そんな醒めた目で公民権運動を見ているからこそ、前述したようにキング牧師の理想論とマルコムXの暴力革命を同時に眺めることが出来るという訳である。ある種理想的な立場でものを見ている。そんな冷静さが本作の魅力だ。

 ただ一方ではそんな冷静すぎる目で世界を見ているため、話が淡々と進みすぎるという問題点もあるのだが、その辺がラスト部分で上手く消化されている。

 常に醒めた目で公民権運動を見てきたセシルは、そのために息子とも疎遠になってしまったのだが、老境にさしかかり、本当に正しいことは何か?と考えた時に、素直な心で正しいと思えた事を行う。ラストで「自分が選択したことに間違いはなかった」。そう言う人生を送れたということが暗示されたところですっきり終わってくれる。

 そして本作の魅力をもう一点。

 本作は擬似的な家族と、本当の家族のどちらも家族形成について丁寧に描いているという点。

 セシルは実際の家族については良い思い出もないし、自分の息子に対しても良い父親とは言えなかった。むしろ仕事上、自分を仕込んでくれたレストランの店主や歴代大統領の家族との親交の方が深まっていく。実際の家族としての関係には及び腰になっていくのだが、やがて息子の思いというものを自分なりに受け止め、本当の家族を作り上げていくという過程がある。

 こう言う家族形成の物語が大好きな身としては、本作を悪く言う訳にはいかない。

(評価:★4)

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