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[コメント] エレニの帰郷(2008/伊=独=露=ギリシャ)

アンゲロプロスの遺作は米仏独のスター俳優出演映画でもあるので、いつもよりも短いカットやアップが多く、一見とっつき易い作りになっている。なので、ロングの長回し自体に衝撃を受けるようなカットが殆どなく、少々寂しくも感じるのだが、
ゑぎ

 しかし、そうは云っても何ら説明のないカットが続く強烈な緊張感、或いはワンカットの中で時空間を交錯させる得意の演出も出てきて、一筋縄ではいかないのはいつも通りだ。また、厳冬のシベリアの工場地帯や、カナダの国境検問所の深い霧の表現なんかは、もうその自然描写だけで胸打たれる。特にこの霧の創造は人手によるものに違いなく、どうしてアンゲロプロスだけが21世紀の現在においてもこのような画面を易々と造型することができるのだろう、と思う。それに、空港のセキュリティチェックの場面の厳しさはどうだろう。さらにエンディングの突き放しの厳しさも、矢張りアンゲロプロスらしさだと云えるだろう。

 ベルリンとブルーノ・ガンツと天使。どうしても「あの映画」に思いを馳せることになるのだが、無数の壊れたテレビが散乱するホテルのホール、その床に、一翼の天使の翼(第三の翼)とそれを追いかける天使の絵が現れるカットは胸のすくカットだ。「あの映画」の中でも確か「テレビなんて面白くない」と云う少年のカットがあった。

 もう新しいアンゲロプロスを見ることができないというのは本当に悲しいことではあるのだが、「あの映画」に倣って云うなら、アンゲロプロスも、小津、トリュフォー、タルコフスキーとともに元天使だったのだと思うことにして、いくらかこのやるせなさを紛らわそう。

(評価:★4)

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