[コメント] とらわれて夏(2013/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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お気に入りのライトマン監督作だけに、失望の思いは否めない。そんな自分が思う、失敗と思えるいちばんの要因は、脱獄犯の造形の中途半端さである。
彼が元々刑務所へ入らなければならなきなった要因は、元妻とのトラブルによるものであるらしいが、あの描写だけではほとんど事故としか思えないものであるし、彼自身も元々は善良な一市民であったとしか思えないのである。
その流れは、ウィンスレット宅に入り込んでからの彼の紳士的かつ家庭的な行動とは合致するから、そんな彼のことを彼女が待ち続けていたという終着点とも繋がらなくはないのだが、そんな彼の基本的な造形を思えば思うほど、物語の発端となる「脱獄」がどうもしっくりとこない。つまり、彼のような人間が「脱獄」してまで娑婆に出たがる理由がどうしても見いだせないから、そんな彼のことをいきなり「凶悪犯だ!」などと言われても、何とも言えぬ違和感が残るばかりなのである。
例えばそれを、「脱獄犯」=「凶悪犯」と決めつける社会の浅はかさをも描きたかったのであれば、もっとそれらしき描写が必要であったろうし、そんな彼がいるのを知らずに彼女宅に関わる友人とのサスペンスが今ひとつ盛り上がらなかった(ドキドキ感が足らなかった)のも、大きなマイナスポイントである。
こういう映画を見せられると、例えば『幸福の黄色いハンカチ』なども、やはりそれなりによく出来た作品だったんだなとも思ってしまう。あれも元々善良な一市民であった男が、ふとしたことで殺人を犯してしまって…という物語であったが、殺人犯という決して消えぬ経歴を持ちながら、根は善良な一市民であるという主人公の造形が全編通して貫かれていた、だから物語の終着点にも素直に入り込んでいけるところがあったのだ。
そのあたりの男の造形を、もう少しうまく整理してくれれば、撮影や役者の演技は安心印なのだから、もっと安心して物語に入り込めたのではないかと思う。決して嫌いとまでは言わないが、残念な作品だ。
***
とは言いながらも、ピーチパイ作りのシークェンスはとてもよかった。ああいう何でもないところを細部にこだわって撮るのところはライトマンの良さだと思う。
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