[コメント] オール・ユー・ニード・イズ・キル(2014/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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日本の作家桜坂洋によるSFノベル「All You Need Is Kill」を原作としたハリウッド映画作品。この作品が発売された時は非常に評論家受けが良く、2000年代ライトノベルの代表作の一本と言われている。内容の派手さ故に、日本で作られるならばアニメ意外にはないだろうと言われていたが、それが実写化。しかもハリウッドによるものということで、拍手をもって受け入れられた。
それで本作の出来としては、実によく出来た作品だった。
一口にハリウッド映画と言っても、それは配給がメジャー会社だからというだけで、そのメジャー会社に売り込むのは様々な制作会社となる。中には大きな会社で巨額な制作資金を使っているものもあれば、制作費そのものはそこそこだが、その代わりアイディアで持っていく作品もある。
特にSFを主題にした作品に関しては、2000年代に入ってその差異がかなり激しくなってきたような感じもあるのだが、極端な大作映画にこっそり隠れるように、低予算で良いアイディアに立ったSFが時折作られているのは、SF映画好きにとっては結構嬉しいこと。CGの発達によって、これまでとても手のかかっていた描写が比較的安価に作れるようになってきたので、アイディア作品もきちんと見栄えするようになってきた。
私はそのどちらも嫌いじゃないけど、やっぱり見栄えを重視する大作映画よりも、アイディアでがんばる小品の方を応援したくなる。
ただ、この流れも少し変わってきているようにも思える。ちょうど昨年、クルーズの『オブリビオン』(2013)が、大作予算を使いながら、かなり物語と設定重視になっており、そのバランスの良さに唸らされたものだが、本作もその流れを受け継いでいるようだ。
予算はしっかりかけていながら、決して物語を疎かにしない。見た目よりも物語と設定で勝負をかけると言った風情があって、これはこれでとてもおもしろい。特にループものの作品を作る場合、構造的に見た目を派手にしにくい弊害があるので、それを無理に見栄えに持って行かず、ストーリー重視の姿勢を貫いたのは評価に値する。
ループものは割と好んで使われる素材ではあるが、この特徴は、短いストーリーを矢継ぎ早に繰り返させ、それを大きな物語へと作っていくこと。
結構慎重にやらないと訳が分からなくなってしまいがちな素材なため、話は割と単純化されやすい。実際原作は混乱を避けるためか、かなりシンプルな物語構成となっていたのだが、それに対しても挑戦が見られて面白い。
それは、同じ一日を繰り返す内、目的が見えてきて、その目的にいかに効率よく到達するか。この構造を、一度挫折させてみたことに現れているだろう。特にアクションゲームをやってる時は、何度も同じ所で死んでみて、その度にいくつもの攻略方法を考え、それがツボにはまって成功した時にガッツポーズ取るというものだが、本作の前半はその通り。ギタイの本体がドイツにいると分かって、いかにしてイギリスからギタイの支配するドイツへと行くか。何度も何度も失敗しては、それがようやく成功した。
ここで物語は終わっても良かったのだ。
だが、それはギタイ本体の張った罠であり、正攻法ではこのミッションがクリア出来ないと知らされた時の絶望感と徒労感を演出してみせた。
これがゲームであれば「無理」と断じて放り投げることが出来るが、それが出来ない時にはどうする?と突きつけられてくる。
ループに巻き込まれてしまっている以上、逃げることも出来ない(物語の初期段階でそれが無理という提示がされているのも細かい演出だ)。なんせ諦めようにも諦められないのだから。新しい方法でギタイの侵略を食い止めねばならない。
私が本作で何よりも評価するのはまさにこの部分。真っ正面からは突破出来ないものを前に、それでも進まねばならないと知らされた時、人はどんな反応をするか。この部分が重要なのだ(その演出が至極あっさりしていたのがちょっと残念だけど)。
その後搦手を含め、現状出来る最善手を探していくのだが、このままでは戦いの描写が無いだけで、前半と何も変わりがない。ここで最初にリタが言った、「多量の輸血を受けると能力を失う」という設定が生きてくる。後一回死ねば終わるという状況で、新たな困難なミッションをさせる必然性をここでつくり上げた。このへんの気配りが小憎らしいほど上手い。低予算作品の良さってものがここでしっかり出来てるし、最後の戦いの過剰演出もこれあってこそ。
と、言うことで、本作は大作と低予算のそれぞれ良いところをうまく組み合わせた好作と言って良い。満足度はとても高かった。
物語の性質上、演出があっさりしていて食い足りないところとか、キャラの掘り下げが足りないとかもあるが、それはないものねだりってところだろう。
最終的に本作の評価をちょっと下げたのは、御年50に届こうというトム・クルーズに主役張らせるのは無理があるという部分だな。もうちょっと若くて集客力ある役者がいればそれに越したことはないのだが…あ、ラブーフがいたな。
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