[コメント] 007 スペクター(2015/米=英)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
これについて語るのは、実はかなり自分自身に対する不明を告白することになってしまう。
クレイグ=ボンドシリーズが始まって以来、何人かの友人と「本来の007とは…」という話をしてきたのだが、その中で私が強く主張したのは、007は他のスパイ映画とは異なる部分だった。そこにあるのは、ある種のファンタジーであり、極端に誇張された格好良さという部分。ボンドには基本的にリアリティはいらないし、どんな危機に陥っても余裕を持ってほしいし、時にコミカルな言動を。という部分を求めるべきであるという部分。どっちかというと初代コネリー=ボンドよりもムーア=ボンドの方に思い入れが強い(これに関しては過去『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)で日本人はコネリー=ではなく、ムーアの方をボンドと思いがちと揶揄するシーンがあったが、あれはまるで自分のことを言われているようで結構グサッと来たもんだ)。勿論スパイ映画は常に変化し続け、発展している。それらの会話の中でも、ボーンシリーズのように、非常にシリアスで緊張感のある作品もあって、それはそれで良い発展をしていって欲しいものだが、007は、それらを多少取り込むことがあっても、基本路線をぶれさせてしまったら駄目になると思いこんでいた。
だから前作『007 スカイフォール』は、昔からのボンドを彷彿とさせてくれたために結構お気に入りだったりもする。その系統で作ってくれたら良いと思っていたし、タイトルに「スペクター」が付く以上、ボンドのライバルであるブロフェルドも出るだろうし、なんだか、これはとても楽しみな作品になっていた。
そして、まさしく私が望んだ通りの物語が展開してくれた。先ほど私が挙げたいくつかの項目は全てクリアし、ダンディズム溢れる、魅力詰まったボンドの姿がそこにはあった。特にオープニングの長回しシーンなんかは、カット割り中心の現代スパイ映画とは隔絶する、本当にボンドの格好良さを強調するシーンだったし、アクロバティックなアクションシーンもあったし、ローテクなカーチェイスシーンもあり、ライバルとしてのブロフェルドの存在感もしっかりしていた。
…はずなのだ。
これだけ私の望んだボンドの姿がありながら、観ていながら、どんどん気持ちが醒めていく自分自身。観進めていく内に、苛々が募る。
何というか、あれほど待ち望んでいたボンドの姿が、過去の作品の良い部分のツギハギだらけに見えてしまう。形骸化したボンドをなぞるだけに見えてしまって、なんだか観てる内に悲しくなってきた。
一体何が悪かったのか、と言うか、一体私は本当にこれを観たかったのか?と言う根本的な問題に苛まれる結果になってしまった。打ちのめされた。
…強いて言うなら、私が本当に観たかったのは、“古いボンドの姿を残したまま、全く新しく魅せてくれるボンドの姿”と言えるのだろうか。望みすぎなのかもしれないけど、そんな作品が出来る事を心待ちにしつつ、次作を待つことにしよう。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。