[コメント] 母と暮せば(2015/日)
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井上ひさしによる戯曲「父と暮せば」と対となる作品。「父と暮せば」が広島原爆で亡くなった父が現れる話だが、こちらは長崎原爆で亡くなった息子が現れるという違いがある。ただ、『父と暮せば』の出来が良く、わざわざそれをリメイクする必要はあるのか?とも思ったが、ちゃんと差別化はなされている。
『父と暮せば』は、過去に引きずられていた娘が死んだ父と語らうことによって、前を向いて生きようという気持ちをもらうという物語だったが、本作の場合、主人公が家族全員を失った母親と言うこともあって、本人の生きる力ではなく、彼女に関わる多くの人達の未来を祝福するという意味で、より広い意味でのドラマになっている。個人ではなく、日本という国そのものへの応援を謳うという意味を持っているのだろう。その意味では、本作はきちんと作られていると思う。
ただ一方では、まさにその点がドラマとしては致命的部分でもある。基本この手の作品は、物語は最終的に個人に落とし込み、物語を収縮させていかないと収まりが付きにくいのだが、本作の場合、個人から始まって、より多く人へと向かう、拡大傾向を持っている。そのため物語が収まらない。主人公が命を失うことで強引に物語をまとめているけど、そこにはやっぱり強引感しか感じないし、誰に向かって話が収まっているという事がないため、感情移入がしづらい。
作りとして、山田監督がやりたかったことは理解した気にはなるけど、その上で言わせてもらうと、「日本人を応援する」という作りは大上段に構えすぎていて気持ち良くない。特にラストシーンは気分的に引いてしまった。
キャラに関しては申し分ない。ヴェテランの境地にある吉永小百合は勿論、二宮和也も器用さを見せている。この二人がしっかり画面を締めていることで、ぐっと作品の質を上げている感じ。画面の端々に登場する子役が巧くはまってる。過不足ない起用の良さを感じさせてくれる。
強いて言うなら、主役の二人が年齢重ねすぎているということかな?母親を演じるにしては、吉永小百合の実年齢は…ってのもあるけど、二宮和也も一回り以上若い年齢を演じてるわけだし。
その辺いろいろあって、良い作品だとは思うけど、監督の自慰的作品と思ってしまえて、あんまり点数上がらないなあ。
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