[コメント] 奥様に知らすべからず(1937/日)
タイトルを表す「妻に真実を告げることのできない事柄」は一つではなく、いくつか描かれていて、プロットの中心になるのは、柔道五段と云う坂本とボクサーだと云う斎藤との決闘の顛末(その真実)だが、これ以外にも、それぞれの女性関係があるだろう。すなわち、斎藤と芸妓の坪内美子は、明確な描写はないが、立派な不倫関係だろう。斎藤は、女中の水戸光子とも一触即発の間柄でであることが示唆される(水戸もまんざらでもなさそうだ)。一方、坂本は、バーの女給ハルエ−東山光子や、マダム−若水絹子、デパートではなんと岡村にも声をかけるし、ラスト近くでは坪内を口説こうとする女好きとして描かれている。
と、設定および梗概(の上澄み)を記しただけでも面白そうな作品だが、さらに、ちょっとぶっ飛んだ演出(というかスクリプトの仕掛け)で特筆すべきは、ナチスの「穴掘り拷問」のような、グラスの水を別のグラスに移すという単純作業を繰り返えさせる刑罰の場面だ(誰が誰に対して課する刑罰かは、とりあえず書かないでおこう)。ただし、実を云うと、これだけ強烈な見せ場があるおかげで(このシーン、このモチーフが突出し過ぎていて)、他の総てのシーンが取り立てて書くほどではないものに感じられる弊があるぐらいだ。
と云うわけで、渋谷のデビュー作は確かに実に面白い作品だが、演出の才気、特に画面造型という点ではまだまだ未知数というか保留のつく出来のように感じた。スクリプト次第というか。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・斎藤と坂本が通うクラブには、近衛敏明、新井淳、河原侃二、仲英之助がいる。
・夜中に帰宅した斎藤が家に入れず、町を一緒に回る「火の番」は谷麗光。
・拳闘クラブのオーナーは大山健二。ヂョーヂと呼ばれるボクサーは笠智衆。柔道の先生で南部耕作。
・斎藤は家では謎の額(ひたい)当てをする(『七人の侍』の菊千代みたいな)。
・岡村の科白で、ディートリヒ、ガルボ、シモーヌ・シモンが出て来る。
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