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[コメント] アイアムアヒーロー(2015/日)

こんなフォーマット通りのリビングデッドものが日本でちゃんと作られたってことが最大の快挙。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ところで本作で何を語れば良いのか。

 実はそんなに多くは無い。

 理由は単純だが、この作品で描かれている大部分は既に描かれ尽くしているから。

 ジョージ・A・ロメロ監督による『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968)から始まったリビングデッドものは数多くの派生作品を生み、現在も尚作られ続けている。年代によってその描写は段階的に変化しているが、基本となる部分は多くが共通している。

 いくつか挙げてみよう。

 リビングデッドは死んだ人間、もしくはそれに準じた存在であり、理性は無くなっていること。

 生きている人間を襲い、仲間を増やすことが出来ること。

 死んでいるため、死を恐れることは無く、直線的に人間を襲うこと。

 仲間同士で食い合う事は無く、生きている人間だけが標的である事。

 時に人間を越える怪力を持つ個体が存在する事。

 …この辺だろうか。他にもいくつか共通項はあるものの、年代によっていくつもの差異がある。

 この前提に則って作られるのだが、そうなると、大体物語は似たものになってしまう。そこで個性をどう作るのか、そこが作り手側の腕の見せ所となる。

 で、本作は、まさしくそのフォーマット通りでほぼ全くひねりが無い。そのため、これまで量産されたリビングデッド作品となんら変わりが無い基本的な作品となってしまっている。

 前述したが、物語性にこれと言って特徴があるわけではないし、アクションシーンは確かに見栄えはするものの、そんなのはまず出来て当たり前。

 それだけで言うならば、単なる駄作になってしまう。

 だが、実はここには大変な個性がある。

 他でもない。本作が純国産の作品だという一点である。

 これまで私が述べてきたリビングデッドものの特徴は、ほとんどがハリウッドもしくはイギリスという英語圏で作られたものであり、それ以外の言語圏のリビングデッドものは、ほとんど話題にならない。

 日本でも一応は定期的に作られてはいた。近年になってからも、例えば『VERSUS ヴァーサス』(2000)とか、『鎧 サムライゾンビ』(2008)とか『山形スクリーム』(2009)とか『デッド寿司』(2012)とか…

 で、これらのタイトルを挙げた瞬間、「ああこれ知ってる」と言う人は一般的にはほぼおらんだろう。日本国内においては、リビングデッド作品は低予算の無茶苦茶マイナーな作品でしかなかったのだ。

 基本的に低予算で、出てくる俳優もあんまり知られてない人が大半。個性を出すために殊更作り物じみたスプラッター星を強調したり、人間とリビングデッドのバトルに特化させたりと、とにかく変化球で出来るだけ目を引くよう頑張って作ってはいる。だが、どうしてもマイナーから脱却しにくい。

 そんな中、きちんとした予算を組んで、まっとうで直球勝負でリビングデッド作品を作り上げた。これはとても画期的な出来事なのだ。予算については流石にハリウッドに敵うべくもなかろうが、それでも見所に関しては全く引けをとってないし、役者も実績ある人が多く、人間ドラマとしても、ちゃんと見られる。

 これ以上のものを求める必要はなかろう。

 まず本作がメルクマールとなり、ここからきちんとした作品が日本でも次々に作られていくことを期待したいものだ。

(評価:★3)

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