豪華俳優陣を並べ、かなり前から劇場CM等で売り込んでいたから余程の作品かと思ったら期待を上回る想像以上の出来でした。「八王子夫婦殺人」を巡るミステリー作かと思わせて、もちろんその視点でも楽しめるのだが、それ以上に深みのあるヒューマンドラマにも感じられました。

タイトルにもある『怒り』という点でいうと正直弱い部分もあるというか、沸々と心に沸き立つような感じの鈍い「怒り」が絡み合い、どこにでも誰にでもある「怒り」であり、日常で抱えながらひっそりと持ち合わせる「怒り」であるように感じた。 構造としては群像劇。松山ケンイチ、綾野剛、森山未來の三人が怪しいという展開が並行していくわけですが、犯人像が絶妙に誰にも似ているのがちょっと笑えました。

誰が犯人なのか、という点でも確かに楽しめます。正直自分は時系列がおかしいのでは、と考えていたから犯人に気付くのは遅かったわけですが。ただ、そういったミステリー要素以上に印象深いのは誰にも怒りがあって、その曇った目でその人を除いてしまうと例えその人がどんないい人だとしても疑って見てしまうということ。訝しむ気持ちが邪魔をして、その人の本質が霞んでしまい、それがどんなに信頼していようが好いていようがその人自身を見失ってしまうということ。このメッセージこそがこの作品をさらに高める要因だと思う。そして絶望で終わらせず、光を射して終わらせたこと。失った信頼、それを取り戻すのはマイナススタートであり容易ではないけれど、どれも救いを見出している。見終わった後の余韻はこういう部分にも理由がありそうかな。

あとはもう役者の演技に尽きます。実力俳優を並べてるだけあって演技には力があり、観客を魅了するだけのものは十分あります。渡辺謙や妻夫木くんに関しては安定の演技力でしたし、宮崎あおいの時折見せる表情にもドキッとさせられましたね。でも特に森山未來にはシビれました。今作では明らかに一枚上手な演技だったと感じました。逆に言えばやはり広瀬すずは実力不足。ラスト辺りの表情だけ見ても何を思っているか伝わらなかった。

一言言わせてもらうなら、そもそもの殺人事件への衝動がよくわからなかった点くらいかな。 また見ればもっと何か感じられる作品だと思いました。