[コメント] 人生タクシー(2015/イラン)
ドキュメンタリー風に作りながら、とうていそうは見えないところが、映画製作を禁じられたパナヒの確信犯的作為。社会と個人の狭間(物語の普遍的なテーマ)に存在する、タクシーという移動(映画的ダイナミズム)する閉鎖空間(疑似シアター)に着目した発想の勝利。
女教師と謎の男の議論は物語に託される人々の正義と倫理という永遠のテーマを、海賊版DVD業者と映画学科の学生の隠密行為は映画の魔力と豊饒さを、私たちに再認識させる。遺言ビデオへの妻の執着や、少女が偶然に撮ってしまったネコババ少年の件は、欺瞞や不正に抗う映像記録の力を思い起こさせ、小学生の“規制”への純粋な戸惑いは権力の浅はかさを、女弁護士のしたたかな言動は体制の不誠実を嗤う。
そして、コソ泥にように映像を“盗む”卑劣な行為を捉えた無人カメラの映像は、まるで意思を持った映像という有機体による無言の抗議に見えた。
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