[コメント] 孤島の太陽(1968/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
フィラリアについてもそうだが、麦のうわづみを赤ん坊に飲ましているなど、付随して浮かび上がる衛生環境が生々しい。浦辺粂子の婆さん達もさもありなんというリアルがある。僻地医療の実態もそうだ。この点、改善はあるのだろうかと不安になる。
舞台とテレビドラマの人である樫山文枝さん(さん付けでないと気分が出ない)、映画で麗しい若き姿を堪能できる唯一の作品だろう。荒木初子保健婦という、破格の善人を演じて素敵だ。真っ直ぐな目線が眩しい。充実した人生を羨ましく思う。
勝呂誉、芦川いづみ、宇野重吉、前田吟と、助演をバサバサ切り捨てて顧みないのが小気味よい。医師試験に落ちて逃げ出す宇野の獣医が印象に残る。ただ、Wikiでは本作を含むブームを「無医地区への医師の確保を怠る行政」の隠蔽に繋がると難じているのはもっともで、この視点が映画に欠けているのは視野狭窄、名作になり損ねている。
余計なことをしない演出がこの際美点で、ロケ地は撮るだけで画になる。海や空の青が美しい(前田米造が色彩計測で参加している)。船での別れが二度あるが、ここは吃驚するほどよく撮れており、クライマックスから通俗の嫌味をろ過できているのが立派。あと、子役がいい。竹中国恵の君子ちゃん。
昔は僻地や海外医療についての感動物語はたくさんあったが、今はとんと聞かない。世界人口の爆発のほうが問題、一定の自然淘汰が望ましい、という恐ろしい意見が誰もの胸のなかにあるためではなかろうか。21世紀はシニカルな時代だ。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。