[コメント] 馬喰一代(1963/日)
いや本作の方が、勝っていると云っていいぐらいだと思う。しかし、この2つの作品は骨格は同じとは云え、細部どころか大きな見せ場のプロットも全然異なる映画だ。
例えば、三船の見せ場だった祭りの日の相撲大会のシーンは本作の三國連太郎には無い。あるいは、前作では、三船の愛馬(亡き妻−市川春代の残した金で買った馬)が出走するレース場面をクライマックスとしたが、本作のそれは、三國が馬喰としての誇りを取り戻す生産馬の品評会のシーンに変わっている。
また、これら以上に全編を通じての大きな改変は、三船は、子供を産んだことで亡くなった妻−市川を忘れることがなく、ヒロインの京マチ子が三船のことをどんなに一途に思い続けても彼には通じない、というじれったさが一つの見どころだったのだが、三國の方は、妻が死んだあとすぐに、本作のヒロイン−新珠三千代に赤子を預けて別の酌婦(顔が判別し難かったが三条美紀か?)と同衾するシーンがあり、私は唖然としてしまった。さらに中盤(子供が小学校に上がってから)、三國の方から新珠に求婚し(土下座もし、惚れてるんだよ!と叫ぶ)、一旦断られるが、結局、新珠が押しかけ女房になるという展開だ。だが、新珠が預かった赤子のアップショットもいい画だし、あやす新珠もいい表情。この夜、三國と新珠が店の前で別れるシーンの切り返し演出の肌理細かさ。また三國が求婚する場面で新珠をクルリと振り返らせる演出の呼吸の繊細さも特記すべきじゃないか。
このような三國と新珠との関係の描写も胸を打つが、本来先に書くべきは、父子の、いや新珠を母とする母子も含めた、家族の情愛を描く部分だろう。出産シーンの、三國が水をかぶったり、薪割りをやり続けたりする演技演出に既に感動するが、矢張り、父子が高台の白樺の木から北見平野を見渡して大声で叫ぶ場面が白眉だ。終盤、息子が中学へ旅立つ場面でも、2人で白樺に登って、大声で名前を叫ぶ。こゝで固定のロングショットが来て「完」かと思ったが、駅のホームでの先生−岩崎加根子との別れや、三國が馬で汽車を追いかけるのも長く見せる。これは少々冗長かとも感じたが、画面には迫力があるし、瀬川昌治の、粘り強い演出の特徴も良く出ていると思う。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・馬喰では多々良純−孫市が目立つ。馬市で後ろ姿から振り返るのが登場シーン。他の馬喰には、関山耕司、杉義一など。
・三船版で志村喬がやった成金役を西村晃。その子分で怖い顔の沢彰謙。
・子供を産んですぐに亡くなる母親は藤里まゆみ。ワンカットのみの出番か。
・最初の小学校の先生は中村是好。留辺蘂(るべしべ)の先生が岩崎加根子。
・三國の隣家の渡辺篤。いろいろ世話を焼いてくれる。この人も目立っている。
・小学校低学年までの子役は金子吉延。後の青影。きっぱりとした口調が可愛い。
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