[コメント] FRANK フランク(2014/英=アイルランド)
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そして、自らの意に沿った活動をさせるべくバンドを操ろうとした男が、バンドから去って姿を消すというラストシーンの風情がとりわけそうだ。あるいは「フランク」という固有名詞とアキ・カウリスマキの因縁に着目して、さらに連想と妄想の翼を広げてみれば、『FRANK フランク』の“I Love You All”は『カラマリ・ユニオン』の“Stand By Me”に類すると云って許されないこともないだろう。ともに演奏は即興的に始まって、各パートの音が次第に重ねられてゆく。胸を掻き乱す切ないサウンドを奏でながらも、そこにはアンサンブルの幸福が確かに成立してもいる。
ところで、この映画の勘所はやはりフランクのマスクの何とも珍妙なデザインだ。モデルがあることは承知したにしても、この真面目なのかふざけているのか判じかねるデザインが映画のパーソナリティを象徴していると云えるだろう。しかし、観客と最も近い立場であるキャラクタのドーナル・グリーソンはマイケル・ファスベンダーが二六時中マスクを被っている理由をあれこれ詮索し、あわよくばその素顔を覗き見てやろうとさえ思っているが、その彼もマスクのデザインについて云々することはないようだ。この映画の不条理は「どういうわけかファスベンダーはマスクを被り続けずにおれない」ことに拠るのではない。それについてはひとまず心理学的というか精神医学的な回答が与えられさえしている。他方で「どうしてこのデザインでなければならないのか」は疑問の遡上にすら乗せられていない。つまり、珍妙であるはずのデザインそれ自体は当然のものとして受け容れられている。不条理の源泉はそこに所在を指摘することができるだろう。
さて、そのようなマスクを被ったファスベンダーは、口惜しいことに何をしたところで大概面白い。スーパーマリオブラザーズで云うところの星を得て身体が発光点滅した無敵状態である。しかるに、演出家はファスベンダーの面白アクションを追求する腹積もりなど持っていなかったらしい。「映画」と面白アクションが同義であると考える観客にとって、残念ながら手放しで喜べる作品に仕上がってはいない。
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