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[コメント] 孤狼の血(2018/日)

松阪桃李が役所広司の後継者となるのか。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 かつて日本では“実録もの”と呼ばれる暴力団を扱った一ジャンルがあった。有名なのは『仁義なき戦い』(1973)で、原作者の飯干晃一は山口組三代目の田岡一雄からのインタビューを元にしたもので、これが大ヒットしたため、東映では数多くの実録ものが作られるようになった。

 ただネタも限られることから、ブームもそう長くは続かず、泥臭さが敬遠される80年代に入るとほとんど作られなくなってしまう。ただ、10年くらいに一作くらいの割で時折作られていた。特に北野武監督がこだわったため、彼の監督作の中心だったし、良い作品も多かったが、北野監督は監督業から退いてしまい、もう作る人がいなくなってしまったかと思われた2010年代。突如再び良作の暴力団映画が作られるようになっていく。他でもない白石和彌監督によるものである。

 白石監督のこだわりある暴力描写は北野監督のものとはだいぶ異なるが、70年代の雰囲気を感じ取れる良作を次々生み出している。

 そんな中、監督の代表作と言っても良い本作が投入された。本作は正確には実録ではないが、いわゆる暴対法(正式名称は「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)前の緊張ある時代を舞台にした非常にリアリティのある小説を元にしたもの。汚職刑事と暴力団の馴れ合いという意味では内容的には『仁義なき戦い』というよりも『県警対組織暴力』(1975)の方に近い。

 この作品は、監督と俳優のかみ合わせがとにかく素晴らしい作品だった。

 この素材を監督できるのは今や白石監督しかいないし、監督のためにあるような素材だった。そしてこの役を演じるのは役所広司しかいないだろう。それくらい見事なはまり具合だった。

 そこまでは想像の範囲内。そして思った通りの出来ではあったが、驚いたのは、もう一人の主人公の存在だった。

 松阪桃李という役者は若手の中では一歩上行く役者だと思っている。主人公として格好良い役も出来るのだが、同時に汚れ役や情けない役を軽くこなすことができるし、本人もそういう捻った役を喜んで演じている。これだけ幅の広い役をこなせるほどに育っているし、この幅はまさに役所広司の相手役として充分である。なんか役所広司の芸歴と噛み合ってるくらい。強烈な役を演じる役所広司に対してそれをしっかりと受け止める役を演じられていた。

 いや、それどころではない。ラストシーンで役所広司が消えると共に、同じ強烈さで取って代わっている。

 これは本当に役所広司の後継者として松阪桃李が現れたということになるのではないかとも思う。勿論これからも役所広司は役者を続けてはいくが、同時に松阪桃李がその役を担っていくのかもしれない。

 貴重なバトンタッチの瞬間を観たのかもしれない。

 ところで本作は評価は高かったのだが、劇場の方は観られなかった。それでテレビ放映を待ってから観たのだが、いつものようにポテチとか飲み物とか用意して、お菓子をつまみながら観始めたところ、オープニングで豚の尻のアップ。更に…流石に食欲無くすぞ。食ったけど。

(評価:★4)

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