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[コメント] 太陽が大好き(1966/日)

閉鎖鉱山の離散を淡々と描く佳作。稀代の名科白「判ってるけど。資本主義の冷酷さは」で太田雅子は梶芽衣子になった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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件の科白は豆腐売ってくれない豆腐屋へのジョーク。太田は本作でただ一人、炭鉱町の外を自由に泳ぎ回り、水着喫茶に至る。蕎麦屋の辞め方など痛快。それは彼女が若い女性だからであり、兄の垂水悟郎は下げたくない頭を下げるかどうか悩み続ける。この世の縮図のようだ。

炭坑の世界の穿った見識がリアルな作品だ。炭坑労働者に二種類ある、と序盤に整理される。鶴嘴一本で全国渡り歩く生粋の炭坑労働者と、そうはなれない農村出。組合幹部だった垂水は、これに対処できなかったのが組合敗北の原因かと呟く。旅烏は次々と旅立ち(博打の都合に見える)、そうでない者は別の就職を探し、浜田光夫は両者にひき裂かれる。賽子博打で進路を決める心情が切ない。就職口は大企業に呑みこまれようとしており、運動会でのハッタリの暴露は賄賂でもみ消される。縮図だなあ。

撮影がとてもいい。炭坑町自体が絵心に溢れており数々の良作を生んでいるが、廃墟だけを捉える本作は独特の静けさがある。軒の低いドヤの生活臭と曲がりくねった路地の狭さはリアルで貧民街以外の何者でもなく、そこで元気な浜田や太田の弾けた演技と大人たちの投げやりな有様が対照されると、実際もこんな具合だったんだろうと思わされる。トロッコ列車のタラップに佇む太田の何気ないショットは箆棒な詩情がある。

民芸映画で日活配給。船越英二に見える鈴木瑞穂もいい。梶芽衣子の自伝「真実」によれば、ラッシュ段階ではラストで浜田は死に至り、これがとても良くて感動したのに、日活の専務が看板俳優を殺すとは何事、と鶴の一声で留置所入りのラストに撮り直させ、詰まらないラストになったと梶はその専務に愚痴り、新人の癖にと怒られた、とのこと。らしいエピソードで面白いが、完成版の収束も悪くない。元はさらに良かったのだろうか、とても気になる。ロケ先は福島の大畑炭鉱とのこと。

(評価:★4)

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