コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 止められるか、俺たちを(2018/日)

目的を果たすためにはどこまで落ちていけるかのチキンレースみたいだ。1969年という時代の熱さを再現しようとした好作。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 日本で最も過激な映画プロダクションという伝説の若松プロの過去を描いた作品で、登場する人物のほとんどは実在する人物。そんな彼らが学生運動華やかな1969年という時代に一体何を行ったのかを描く作品。

 まずなによりこんなワイルドな現場が実際にあったことという事実が凄い。

 特に映画制作という側面で考えると、当時の独立系プロはどうやって映画を作っていたかがはっきり示されていることと、映画作るためになりふり構わずあらゆるものを犠牲にする覚悟がここには表されている。

 映画を作るために一体どこまで妥協するのか。

 ポルノを作って制作費を得ることで、尊厳のようなものを失ってもいい。自分勝手な発言を繰り返すことで信用をなくしてもいい。過激派と付き合って社会からドロップアウトしてもいい。言われるだけなら犯罪者と言われても良い。

 ただ、自分の思ったとおりの映画が作れるならばそれでいい。その目的だけは決して見失わないことが映画作りの矜持となってる。

 それこそが至上の目的であり、目的を果たせるならば、その過程を問わないことが若松プロのやり方だったのだ。

 一体どこまで堕ちたところで誇りは持続できるのか?そんなことを問われているような話になってる。

 これは主人公のめぐみが自分探しに来たという事から始まる物語だから、それを貫いたものとして考えるべきなのかもしれない。

 彼女が若松プロの扉を叩いたのは若松孝二の映画にパワーを感じたからで、それだけの求心力のある映画が作られたからなのだが、実際にその世界に飛び込んでみると現実は過酷すぎた。

 若松孝二であれ足立正生であれ、とにかく過激。スタッフに対しては人格攻撃までして責めまくり、映画を作ってないときは酒を飲むか女の家にしけこむか、事務所にいても適当な命令を下しまくり、それに反抗を許さない。これに似てるのは、大学とか高校の先輩後輩の間柄。丁度当時のことを描いた嗚呼!!花の応援団(1976)のバンカラな世界である。

 そんな中で率先してその世界に入り生き抜こうとした一人の女性というところに目を付けたのは慧眼だった。

 主人公が例えば男であれば、70年代にそういう作品は結構作られていて、目新しさは感じられなかっただろうが、主人公を女性にしたことで視点がぐっと現代的になった。

 現代の目から見る限りでは、理不尽な物事も、率先して女性が行うことで「よくやってくれた!」という賞賛に変わるし、リアリティよりは一種のファンタジー的なものとして受け入れられる。

 だからこの時代になって作られる意味は確かにあったと思う。一見間延びしたような印象もあるが、間の悪さも含めてビルドゥングスロマンとしてきちんと機能してるし、意外なラストにも驚かされた。

 ただ、一つ勿体なかったことは、若松孝二が作った最大の問題作赤軍派-PFLP 世界戦争宣言(1971)がどれだけやばい作品だったのかが本作だけでは全く伝わってこなかったことだろう。この製作現場だけで映画一本作れるほどだし、それでよく完成まで持って行けたという苦労話が出ていたら。とは思うんだが、これはここで語るには重すぎるネタだったかな?これから別な形でこれを描く作品が作られるのかもしれない。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。