[コメント] 夏の嵐(1956/日)
1956年は中平康の監督デビュー年で、『狂った果実』の公開が7月、9月に『狙われた男』、本作は10月公開、12月に『牛乳屋フランキー』と続く、なんという充実したラインアップ。中でも本作のエキセントリックさはちょっと突出しており、私の好みということでは、本作が頭抜けているかも知れない。
クレジット開けは自室の北原で、上半身スリップに下はスカート姿。そこに弟の津川雅彦が入ってくる。こゝで北原にはストッキングを履く(弟の前で脚を見せつける)サービスカットがある。次に階下の父−汐見洋、母−北林谷栄、姉−小園蓉子を見せて行くのだが、北林もストッキングを履くカットで登場するというのがギャグのよう。
良いシーン、忘れがたいショットは目白押しで書き切れ無いほどだが、もう少し上げておくと、まずは、北原のフラッシュバックで挿入される三橋達也との出会いの場面。これが夜の湖畔をスタジオにしつらえたものなのだが、実に良い雰囲気が出ている。あるいは、北原が、姉−小園の婚約者として現れた三橋と踏み切りの前で会話するシーン。遮断機が下りて矢印ランプが三橋から北原に向けて灯るショットが面白い。屋内シーンだと、北原の部屋の三面鏡や、北原が階段を上がるのが映る客間の鏡の使い方なんかもいいし、津川と北原で、お互いにそっぽを向かせたドンデンの切り返しだとか、三橋と小園でも2人が目を合わせない切り返しがあり、これらも面白くて仕方が無かった。
かと思えば、墓地の中で三橋と北原がキスをする場面の顔アップの切り返しのような力ある演出もある。本作の北原はフルショットもアップショットもとびっきり美しく撮られていると感じた。また、廊下を右にパンしながら北原を右にフレームアウトさせ、カメラが止まった後、照明を変化させて今度は左にパンすると、先はいなかった汐見が仕事をしている、というような時間経過の表現や、津川と北原がベッドに倒れこんだ後、風に揺れるカーテンと飛ぶ書類のショットをスローで挿入するというようなセンス溢れる画面造型も特筆すべきだろう。
あと、本作には少年期(16歳ぐらい)の唐十郎が出ている(クレジットでは大鶴義英)。北原は中学(の特殊学級の?)の先生なのだが、教室で北原に「先生、殴ってください」と唐突にお願いする生徒の役だ。北原は、爪を噛まないで、と云いながら、結果的に3回ほどもなぐる。殴られた後、生徒は「僕先生好きだ」と云う、なんとも複雑な思いになるシーンで、はっきり云って、プロットを効率的に運ぶ上では、全く不要なシーンと思うし、全編で一番浮いている部分だ。こういう未整理な感覚を受ける部分を嫌う観客もいるだろう。
さらに、この時点で既に、中平らしいスピーディな科白回しの会話劇が試みられているが、北原のナレーション含めて、青臭いとも感じられる、ネガティブかつ観念的な科白が多く、これに反発を覚える部分はある。この辺りが、名作として遇されない所以だと思うが、中平の演出を楽しむということでは、充分見応えがある。
#備忘でその他の配役等を記述。
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