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[コメント] 鶏はふたたび鳴く(1954/日)

「朝になると日が昇る。夜になると暗くなる。当たり前の話だ、ヘイ!飯を食わなきゃ腹が減る」という主題歌。全編に亘って、登場人物が唄ったり、劇伴として使われたりする。最初は、奇妙な歌だと思ったが、次第に耳について離れなくなる。
ゑぎ

 一人の死から始まり、一人の死で終わる。死についての映画であり、タイトルで想像できる通り、時間についての映画でもある。開巻は海と朝日。場所の名前が「時の岬」だ。天然ガス採掘会社の社長の自死についてナレーションがあり、海辺での葬送シーンが描かれる。このシーンで主要人物を一気に登場させる見せ方が上手い。また、良いショットの連続でもある。喪主は飯田蝶子で故人の母親だ。飯田は葬列の後ろの方に移動して、一人の女性をなじる。息子が自殺したのはお前のせいだと。この女性が、ヒロインの南風洋子。南風の後列には佐野周二(通称世ン中)、佐竹明夫(御落胤)、渡辺篤(学者)、坂本武(バクさん)、中村是好(サアさん)がいる。この5人は、故人に雇われていた、天然ガスの掘削要員だ。

 南風の家は時計屋(時田時計店という名前)で、主人(南風の父親)は東野英治郎が演じるが、これが、妻を流れ者に寝取られ、連れ去られた男ということで町中から馬鹿にされ、引きこもっている、情けない男の役なのだ。勿論、こんな役でも東野は上手いが、この人の独特の豪快な笑い声を聞くことができないのは、ちょっと寂しい。上で時間についての映画だと書いたが、時計は南風と佐野たちとの間を繋ぐ道具立てとなる。

 また、南風の友人として、妾腹の娘の小園蓉子と、右脚が悪い(跛行している)左幸子が出て来て、以前から3人一緒に死ぬ約束をしており、皆、同じハートのペンダント(ロケット)に毒薬(青酸カリ?)を入れて持ち歩いているところが描かれる。この部分でも、この映画が死についての映画だと感じるところだ。

 さて、本作でもっとも良いと感じた場面は、この女子3人が、石油技師の伊藤雄之助と出会う場面周りのシーケンスだ。霧の砂丘に女子3人が並び立つショットから始まって、凄いフォトジェニックなショットの連続なのだ。あとは、佐野ら5人の男たちのリーダ(一応、社長という言葉が使われる)を決めるのに、軍手の親指を引いたら当たり、というクジ引きをするのだが、これで決まった佐竹明夫が、難癖を付けに来た手合いに何発も殴られるシーンがある。この場面の佐竹がとてもカッコいいので明記しておきたい。その他の脇役だと、大阪から乗り込んできた、東野のお姉さん役の三好栄子が、度量の大きい女傑キャラを貫禄たっぷりに演じている。スカートをまくって落ちたストッキングを上げるショットが目に焼き付いてしまった。あとは、郵便局長役の柳谷寛が、ちょっとしか出ないが、ラストまで絡む良い役だ。

 後半、伊藤を頼みの綱として始める石油試掘に関する描き方などが、今一つスカッとしない展開だと思ってしまうし、バッドエンドではないが、さりとて、手放しでハッピーエンドだとも云えない(観客の心性にもよるだろう)収束も、私には中途半端に感じられてしまった。良い映画だとは思うが、五所の中では中程度か。

(評価:★3)

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