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[コメント] その人は遠く(1963/日)

美点は姫田キャメラ。全てのカットがブロマイド級な芦川いづみの顔をあえて映さない風呂場の窓越しの指切りが箆棒に美しい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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押し込み過ぎのメロドラマでもう30分尺をあげたかった。父の葬式後10日で芦川が家を出たり、山内賢の合格発表に母の小夜福子が家を空けたりと、話の脈絡すら怪しい箇所まである。

しかし山内賢の優柔不断にリアリティが篭もる瞬間があり、捨て難い。若さ故の嫉妬や、芦川に金銭的に頼られて応えられない学生身分の情けなさ、和泉雅子との三角関係に虻蜂取らずの投げやりになってしまう展開など、さもありなんと感じる。メロドラマ御用達の親戚連中の出鱈目な曲解も生々しい。

芦川が年上で遠い親戚、という関係は『野菊の墓』を想起させるが、この元祖同様、女が年上という処に心理的抵抗が設定され、親戚関係は恋愛の障碍と見做されていない。これはどうも不思議だ。60年代でもそうなんだろうか。

もう一歩で富島健夫の世界になる処で身を翻す芦川の身持ちの堅さ、着物の裾でキスを遮るショットが印象的。カラッと別れて九州に旅立つ芦川の指でつくったOKマークもいい。ひと世代前ならよよと泣き崩れるメロドラマになっただろう。時代は明るかった。比較的珍しかろう芦川の利発な造形、前半出ずっぱりの小夜福子さんも嬉しい。田園調布駅が格好いい。

(評価:★4)

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