コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] あした晴れるか(1960/日)

これももうホントウに日活映画。荒唐無稽な楽しさに溢れる。極端なスモールワールド攻撃(広い東京で偶然の遭遇・再会を繰り返す作劇)もこゝまでくればチャームポイントだと云いたくなる。
ゑぎ

 勿論、中平康らしいマシンガントークと速い展開もとてもいいと思う。ただし、本作を中平の傑作群の中に置いてみると、あまり突出するところのない、こじんまりとした作品に思える。一つには、これは凄い!というような画面造型を感じさせるシーンがないこと。もう一つはキャラクタリゼーションにも聡明さを感じさせないことだ。

 例えば、芦川いづみについて。本作の伊達メガネをかけた彼女もたまらなく可愛い。だがそれは、仕事のできる女性という本人の自負とは裏腹の、酔っぱらって我を忘れる部分や、石原裕次郎と他の女性(特に中原早苗)との絡みに嫉妬する態度といった、ある種の弱さとのギャップの可愛らしさが訴求されているように私には思える。それこそ終盤のアホっぽさにはいたたまれなくなった。対して芦川とやり合う中原早苗は、私は芦川以上の儲け役と思った。だからこそ、芦川ファンから見れば(勿論私もそうだが)、中原は出しゃばり過ぎに思えるだろう。中原の謎のガングロも目に付くが、最初に書いた、本作のスモールワールド攻撃は、ほゞ中原に拠るもので、彼女がプロットを裏回ししているのだ。

 また、本作の石原の役はプロカメラマンで(家業を手伝って、神田の青果市場−やっちゃ場で競りもやるが)、東京の裏表を撮影するという企画に参加する設定だが、決して観光映画にはせず、名所は最初に訪れる深川不動尊ぐらいで、あとは、佃島の町並みとか、皇居のお濠(日比谷辺りと千鳥ヶ淵辺り)なんかが出て来るだけで、どんどん名もない場所での社会派の撮影になっていく。これも予想が覆されて面白いと思う反面、画面としてはパッとしない弊があると感じる。

 美術装置だと、終盤近く、中原が歩道でぶつかった杉山俊夫(芦川の弟役)と仲良くなって、2人で入るカフェの内装が奇抜な装置で面白いと思った。ウェイトレスが露出の多い衣装を着て音楽に合わせて踊っているのもいい。これに比べると、何度も出て来る中原が勤めるバー「ホブノブ」の内装はいたって普通の美術だ。あと、脇役で特記したいのは、芦川の姉役の渡辺美佐子だ。本作でも出番は短いが、存在感を発揮する。登場が自死しているかと勘違いさせる、というのはそれなりとしても、登場間もなく、何の理由もなく石原のカメラからフィルムを引き出している彼女のカットが繋がれる、というナンセンスなキャラ造型が好きだ。この場面が全編で一番好きかも知れない。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・石原のオジさんで神田青果市場の偉いさん−三島雅夫。その妻は清川玉枝。青果市場のシーンでは嵯峨善兵もいる。

・石原を雇った「さくらフィルム」の宣伝部長(芦川の上司)に西村晃

・芦川の父は信欣三で、母は高野由美。芦川の姉の渡辺に云い寄るのは藤村有弘。渡辺の恋人・下田さんは庄司永建

・芦川と石原が車をぶつける花屋の東野英治郎。花屋の主人は宮阪将嘉

・東野を仇と狙うヤクザは安部徹。その子分で草薙幸二郎

・石原と一緒に飲み明かす殿山泰司。2人が絡む銀座の花売り娘は刈屋ヒデ子

・取材に行ったチャームスクールの校長−宮城千賀子

・バー「ホブノブ」の女給でいつも中原と一緒に接待する星ナオミ

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。