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[コメント] モーゼとアロン(1975/仏=独=伊)

現場主義により描かれたシェーンベルグのオペラ。「出エジプト記」の有名な件で、登場人物も少なくて判りやすく、杖が蛇になるみたいな描写も散見され意外と娯楽作。不協和音満載の現代音楽がさすが元祖の格好よさ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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偶像崇拝を巡るふたりの、信者を纏める方法論の違いが描かれる。オペラだからみんな歌う。モーゼが歌いアロンが歌う。ナイフ持った男たちがダンスする。牛が屠られ、白画面でコーラスは歌いまくる。「選ばれた民は何でも耐える。模範の民となろう」。アロンの杖が蛇になったり、壺のナイルの水を流すと血、という描写もある。後の禁欲的な作品からすれば娯楽仕様。一方、山々のパノラマパンも採用される。

モーゼとアロンは対立する。「想像し得ぬものを愛せ」「想像し得ぬものを愛せるか」。アロンは(何と)演技しており、自分の皮肉な人生を自嘲するニュアンスを表出している。黄金の牛を披露する際の、誇らしげな道化ぶり。「神を信じるべきか。姿を見せてくれ」と乞う民衆に黄金の牛で応えるのだった。これはストローブ=ユイレ的には当然、資本主義だろう。民衆が乞うなら仕方ないはないかとアロンは云う。モーゼが山から下りてくると牛は消え失せる。

単純にアロンを批判する内容に見えたが、そんな単純なものではないらしい。ストローブのインタヴューで「俺は望んでいる、映画の最後でモーゼがアロンを破滅させているだけでなく、アロンもまたモーゼを破滅させていることを」。指導者は全滅し、民衆は政治を自分で始めるべし、と語っている。初の35ミリ長編劇映画。映像作家でドイツ赤軍派、1974年に獄死したホルガー・マインスに捧げられている由。

(評価:★4)

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