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[コメント] パラノイアック(1963/英)

さすがJ・テイ原作。競合する複数の局面が縫い込まれたプロットの入れ子構造、ゴシックの雰囲気濃厚な曰くありげな舞台(隠し部屋のある舘と天を摩する断崖絶壁)、曲者揃いの役者陣(タイプキャストのオリバー・R)、今日の目から見ても新鮮さを失っていない驚愕の種明かし(技巧に走ったものとは異なり心理的に腑に落ちる)。後年ジャーロにも継承されるデカダンな怪奇趣味も健在なら、ミステリファンも納得のトリックの大盤振舞
袋のうさぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







生還した“トニー”とエレノアの近親相姦的な愛の芽生えをもっと丹念に(濃密に?)描けていれば、終盤に向けて加速する展開にもっと切迫感が増したかもしれない。個人的にはちょっとあっさりしすぎな感じがしないでもないが、あまり倒錯性が強まると、まったく別の映画になってしまう恐れがある。。。。

同じ監督作品としては、翌年の『恐怖の牝獣』ほど、空間的な道具立てを開拓する余裕がなかった印象が残る。それでもキャメラの動きは堅実で、無駄のないカットを狙い通りの構図にぴたりと収めてくるので(**)、話運びが一瞬たりとも弛緩することがない。 特に幽霊のように神出鬼没する(亡き)兄の残影を追いかける一連のシ−ンが水際立つ。 隠し部屋の裏窓越しの窃視の場面も、時間が逆流したような幽遠さが棚引いていていい。

オリバー・リ−ドは、いつものオリバー・リ−ド。上流階級の放蕩児ならではの凶暴さと洒脱さを併せ持ったマナーリズムがなかなかの迫力。口外無用の過去を引きずった者の鬱屈さ加減が、カリスマがかった陰影を深めるのに寄与している。

ラストの真相暴露は、ポーやアルジェントの某作を彷彿とさせるおぞましさで、この種のグランギニョールものが大好物な私はぐっときてしまった。

とにかく、ハマーのサスペンス映画シリーズには、まだまだ広く世間に知られていない逸品が埋もれていそうだ。と再確認。

**つまり、人と人、人と場所、ある出来事と次の出来事の間に想定される位置関係/因果関係が、草案の段階でしっかりと確立されているので、撮影プランにも容易に翻訳できるということ。

(評価:★4)

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