[コメント] 男の花道(1941/日)
茶店の中にいる古川緑波が下男の渡辺篤に「きっとめくらだ」と云う。
上方の人気役者、中村歌右衛門−長谷川が、江戸での興行に向かう途中、失明寸前の状態になる。それを助けた眼医者のロッパ、礼金を頑として受け取らない。ロッパは、学び得たものでお返しを、と云って去るのだが、こゝでまた富士山が映される。というワケで、後半は、江戸で大人気となった長谷川−歌右衛門が、眼医者のロッパへ恩返しするプロットとなる。
私が見た73分版は、どうも短縮版のようで、冒頭クレジットに記載されていた配役の中には結局出てこなかった人が何人もいる。例えば鳥羽陽之助と山根寿子は親娘役だったみたいだが、この2人は出てこない。他にも清川荘司や沢村貞子の場面も切られているのだろう。しかし、短縮版と知らずに見たなら(冒頭クレジットも気にしないのなら)この現存版で過不足のない出来と感じられるし、引き締まったプロット構成だと感じられる面白さだと思う。
序盤の長谷川の手術シーンに持っていく段取りの見せ方(手術を拒むロッパに対して上手く促す渡辺)や、手術後の行燈と蝋燭を使ったローキーの画面なども見応え充分だが、何と云っても素晴らしいのは、江戸の中村座の場面、その外観および、舞台や客席を映したクレーン移動ショットの数々だ。何と優雅な優美な移動撮影だろう。
特に、舞台上で踊る長谷川のところへ黒子がロッパからの手紙を持って来て渡すシーン。これは3台ぐらいのカメラを同時に使ったマルチ撮影みたいに見える。舞台上で巻紙を広げて読む長谷川。騒ぎだす客たち。幕が閉められ、客席からは座布団が飛ぶ。この客席を上昇して俯瞰にし、さらに移動するクレーン撮影。この後、客の前に出て花道に手をついて話し始める長谷川。こゝのまるで浮遊するようなカメラで捉える撮影も凄い。あるいは、ラスト、足元からティルトアップし、扇から顔を出す長谷川を捉えたショットが、そのまゝ客席上空をトラックバックしてフルショットになり、素早くパンして客席を俯瞰で見せるというワンカットも凄いセンスだ。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・三島の宿の主人で柳谷寛。番頭は永井柳筰。呼ばれた馬の医者は高勢実乗。
・ロッパが看る長屋の女房は清川玉枝。他の長屋の住人に真木順ら。
・窮乏したロッパが仕官した先の殿様−水野出羽守は、富士山。マキノ正博は富士山大好きだ。風で幟(のぼり)がはためく。籠から女形姿の長谷川一夫が出て来る。お付きの山本礼三郎とともに関西弁を喋る。長谷川の顔を左に向ける山本。富士を見る2人のツーショット。丸山定夫】。
・同僚の医者には嵯峨善兵と深見泰三がおり、深見は宴席で幇間のように踊る。
・茶屋の女将で千葉早智子。芸妓として、伊藤智子、一の宮敦子、戸川弓子、伊達里子、谷間小百合、音羽久米子、三條利喜江、鈴村京子、矢口陽子とまあまあ有名どころが集まっているのだが、ほとんど仕出しレベルの扱い。
・中村座の客の中には横山運平がいる。「行ってやれ!」と叫ぶ客。
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