[コメント] フォードvsフェラーリ(2019/米)
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やはり音の良い環境で観ることをお勧めしたい今作。DolbyCinemaは今作のようにレーシングカーの様々な動作音を堪能するのにも適していると思わせる。爆音気味の設定も気が利いていた。シフトチェンジの音とか本当に素晴らしい。 撮影手法の進歩によって、CGIに頼りきらずに実物のレーシングカーによる迫力ある映像に仕上がっている。そういう撮影と60年代のレースシーンのアナログ感は親和性が高く、上手く作用していると思う。
ケン・マイルズは実際優れたエンジニアであり、レーサーとしても優秀だった。彼とフィル・レミントンがシェルビー・アメリカンの重要人物だったようで、GT40Mk. IIへの貢献度は高かったという。実像はともかく劇中ではあの副社長から「純粋」などと勝手に言われていた。でも彼の中にも葛藤はあり、生き辛いなかで前人未到のことを成し遂げたはずだった。が、結果的に「人間関係」や「企業の論理」に傷付けられたのか。今作は66年のル・マンの結果とその直後の事故死から逆算したように作られているので、二回目の鑑賞では多くの伏線を再確認することになる。 またマイルズがキャロル・シェルビーの誘いを聞くダイナーでのシーンで、一匹狼のような彼が企業論理を完全に把握しているように語るのは違和感があるが、わかりやすくするための工夫だ。実際、本作は2時間半強の長さだが(『グラン・プリ』は4時間超えだった‥)、それでも繋がっていない描写があると思うし、その最たるものがマイルズと二世の対面シーンだろう。全体からは気にならないが、ル・マンでのスタート前の2人の雰囲気は「事前に何かがあった」と思わせる演技を2人はしていると感じたから。かなり重要な部分もカットしてその長さになったことが伺えるので、後にソフト化されたときの特典は気になるところ。
シェルビーは遺伝と思われる心臓疾患を抱えていたが、表面化せずにキャリアを積んで実際にフェラーリからの誘いを受けていたりする。結果として雇用関係とはならなかったが、ここから既に確執はあったことになる。映画の中のマイルズもシェルもフェラーリがいかに優れたものを作っているか理解しているので、二人とも初めは同じような反応だ。しかしそこに挑戦することの興奮もまた共通しており、似た者同士であることが示される。 ちなみに『24時間戦争』によると初期のシェルビーのチームには日本人もいたそうだ。66年のル・マンに向けては自動制御によるエンジンテストも行われ、あのバックストレートからのシフトダウンもシミュレートされていたという。
マイルズたちを悩ませるフォード内の政治とレース文化への無理解だが、そうした構図がマイルズとシェルビーたち個人を浮かび上がらせて、そしてあのデイトナでのカタルシスにつながる。タイトルは『フォードvsフェラーリ』でも、今作の最大のカタルシスはこの時のシェルビー側が「フォード」に勝利した瞬間だと感じた。あの「7000rpm+」のサインが出されてマイルズが「alright」とシフトを変える。ベタすぎるのに最高。ここが良すぎたので、あのル・マンでの結末が対比されてより苦いものになっている。これは上手いと思う。ル・マンでのレースシーンをしっかり長めにとっていたことで、レースの流れや状況の変化もわかりやすくなっていたことも良かった。シェルの細かい嫌がらせも可笑しい。 実際の66年のル・マンではテスト走行中のフォードのドライバーが事故死しているし、誤って優勝してしまったマクラーレンは4年後にやはりテスト中の事故で死亡している。当時のレーシングカーがいかに危険なシロモノだったのかが伺える。
一方のフェラーリも実は一枚岩でなく、社内政治でドライバーは英米の人材からイタリア人に変わったりしている。そうした国粋主義がフィアットとの提携にも表れているだろう。翌年のデイトナでは改良した車両でフォード勢がリタイアする中、見事に1・2・3フィニッシュを横一列で決めたというからさすがとしか言いようがない。
今作ではフェラーリはいわば巨人のように扱われていたが、作中で描かれたようにその製造インフラはフォードに比べてもはるかに脆弱で規模など比べようもない。その彼らがアメリカの物量作戦に敗れてしまうというのは色々考えさせられる。ちなみに今作を2回観るあいだに『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』をようやく観て、追加された航空エンジンの開発描写にちょっと笑ってしまった。偶然にしても面白いなと。
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