[コメント] 男と女 人生最良の日々(2019/仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
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男の心の中に火のような感情が渦巻いていることが、素晴らしい移動撮影で分かる。
早朝のパリの街を車を駆って、信号を無視して疾走する主観的表現による映像は、忘却の淵から自ら掬い取った男の晩年の回想だろう。いや、これも幻想かもしれない。しかしその違いは大したことではない。そこに生への激しい意志が豊かに美しく表現されていればよいのだ。
このシーンのあと、映画は、2人が、女の車で女の運転でゆったりとドライビングを満喫するシーンで静かに終わる。余韻のあるいいエンディングだった。
老人の心には、その人の子供時代、青年時代、壮年時代の情熱や関心、感情が層をなしている。それも岩石化した地層ではない。微生物も混ざった生々しい土層であるかのようだ。老人とは、子供であり、青年であり、壮年であり、そしてやはり老人なのだ。この透徹した人間観がクロード・ルルーシュの描きたかった主題だろう。
私が男ゆえの限界かもしれないが、この映画は男側から描かれているように見える。女性はこの映画をどう読むだろうか。
それにしても映画とは残酷なものだ。50年前と現在の姿が交互に映し出される俳優達の心が思いやられて仕方ない。心中ずしりとこないはずがないからだ。と同時に、アヌク・エーメもジャン・ルイ・トランティニャンも、50年の残り香をどう表現するか、かなり難しい仕事だったと思う。同じ人物が演じているから同じ人物に見えるとは限らない映画の怖さと戦ったはずだ。
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