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[コメント] 上陸第一歩(1932/日)

隣の八重ちゃん』(1934)の2年前、最初期の土橋式トーキーだが、上映されたプリントの音の明瞭さは『隣の八重ちゃん』より本作の方が上に感じた。スタンバーグの大傑作サイレント映画『紐育の波止場』の翻案という無謀な企画。
ゑぎ

 波止場のモンタージュ、酒場女達のいる建物、そのバルコニーの横移動という凝った出だしを持つ。続いて船内の火夫のシーンとなり、『紐育の波止場』でジョージ・バンクロフトがやった役を岡譲二が演じる。正直、こゝで彼我の画面の密度の差に愕然とはなるが、それでも島津保次郎も岡譲二も頑張っている。ヒロイン・水谷八重子の登場シーンなんて、これはこれで、あっと驚くカッティングだ。埠頭に向かって画面奥へ歩く水谷の姿を後退移動で見せるカットがあり、このカメラの動きの唐突さ自体に驚いていると、さらに次のカットで列車を走らせてしまうのだ。

 その後、水谷八重子の芝居をイヤというほど堪能することのできるシーンが満載なのだが、特に飯田蝶子の旅館のシーンからは、水谷の一人舞台の様相を呈する場面も多く、映画としてどうか、という感覚になる。

 あと、音の使い方だと、ラスト近くの港の倉庫裏での乱闘シーンがかなり自覚的な音の扱いだ。港湾建設が進行中で、かなりの騒音。鉄を叩く音、ビス留めの音。そして拳銃の発砲。

#備忘で配役などを記す。

 悪役、ブルジョアの政は奈良真養。その情婦に沢蘭子。この人、雰囲気ある。政の子分で江川宇礼雄。プロペラのしげという役名。いい味を出す。岡譲二と同じ船の司厨長という上役に河村黎吉。これも政とつるむ悪役。

 酒場のマダムは吉川満子。いくぶんニュートラルな立ち位置か。貫禄がある。

(評価:★3)

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