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[コメント] 金環蝕(1934/日)

すっごいメロドラマ。だから、主人公の藤井貢は3人の女性から慕われる。すなわち、川崎弘子桑野通子坪内美子の3人だ。
ゑぎ

 こゝに藤井の親友(神田)−金光嗣郎が投入され、金光が川崎と桑野に逐次プロポーズすることで、トライアングルの反復が生まれる。また、坪内も藤井をめぐって桑野と川崎と時を置いてトライアングルを形成する。つまり全体では4つの三角関係が描かれていると思う。いやもっとザックリ云うと全部で5人なので五角形と云ってもいいし、さらに脇役で桑野の従兄−近衛敏明や、女給としての川崎の馴染み客−奈良真養の存在もある。あるいは、ちょっとあり得ないような人物の遭遇に関するスモールワールド攻撃(広い東京での偶然の再会)の反復についても、すっごいメロドラマと感じさせる部分だろう。

 しかし、そんな幼稚なドラマ性に比して、清水宏の映画性ほとばしる画面の調子は絶好調だ。特に冒頭から序盤の田舎(藤井、川崎、金光の故郷)の場面が素晴らしい。まずは、金光が法学士になって帰郷するとウワサする人々を、3つのシーンで見せる開巻。最初の2つは村会と青年団の会議場面で、いずれも画面奥に向かって左右のテーブルに人が座っている縦の構図。対して3つ目は、カゴを背負い道を歩く女性たちのほゞシルエットのロングショット、つまり横の構図だ。この対比に抜群のセンスを感じる。また、この序盤のシーケンスにおける水車の使い方も特記しておきたい。夜、藤井が川崎を呼び出し、別の夜には川崎が藤井を呼び出すが、藤井ではなく金光がやってくるという事件の場所となる。いやそれだけでなく、回る大きな水車を映して、川崎の回想を字幕だけで表現する演出が実にいい。

 中盤以降、東京へ舞台を移してからは、序盤ほどには研ぎ澄まされた映画性を感じられなくなってしまうけれど、それでも、桑野通子が主導するモダンな画面造型は見応えがあるし、桑野と藤井、川崎と藤井、そして川崎と坪内、それぞれ2人の会話シーンでイマジナリーライン越えの切り返しを見せる演出もキャッチする。また、夜の道を歩く川崎と坪内を映した横移動ショットの反復など、清水らしい移動撮影の頻出も目に心地良い。中でも、かなりのスピードで走行する自動車を横移動で撮ったショットが、土手のような地面で画面下半分だけマスキングされていて(走行する自動車の上部半分だけが見える)、後に、川崎と坪内がカフェの店内を歩く横移動でも、低い仕切り(パーティション)で彼女らの腰上しか見えない(下半身はパーティションでマスキングされている)というショッ トが出て来る相似の画面造型が面白いと思った。

 尚、桑野は19歳頃で、これが映画デビュー作。川崎は22歳、坪内も19歳頃(彼女は前年が映画デビュー。デビュー前はカフェの女給だったそう)だ。役柄上は、川崎が変化のあるキャラなので儲け役と云えるかもしれないが、三者三様に個性が確立されていて印象に残る造型だと思う。桑野の醸し出すムードは既に落ち着き払ったものであり、とてもデビュー作とは思えない。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・藤井の父母は河村黎吉吉川満子。弟は野村秋生

・金光の父母は仲英之助青木しのぶ。川崎との縁談を持ちかける葛城文子

・桑野の父は藤野秀夫。弟は突貫小僧。藤井は突貫小僧の家庭教師になる。桑野の家のお抱え運転手に山口勇。その妹で庭(花)の手入れをする坪内。

・映画館のロビーで桑野と一緒にいる友人に高杉早苗三宅邦子。一瞬だけ映る。

・桑野と金光と藤井が一緒に見る映画はルーベン・マムーリアンの『恋の凱歌』。そのラストシーン。ディートリッヒとブライアン・エイハーンが映る。

(評価:★4)

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