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[コメント] 海の純情(1956/日)

タイトルだけ先に出て、スタフ・キャストのクレジットが出るまでの間、軽妙なナレーションと共に漁師町の風景が点描される。
ゑぎ

 芸者の明美京子、右顎のホクロが目立つ。飲み屋の小田切みきは、男性を店に連れ込むが、ジャンプカットし、出てきた男性はボロボロに。そして女子大生の高友子がカメラ目線で鯨を研究していると云い、スケッチブックを広げると、鯨のアニメーションに繋がる。そこにクレジット、という楽しい趣向のオープニング。鈴木清順の監督第2作だ。

 主人公は当時の流行歌手、春日八郎で、捕鯨船の船員役。船長の小林重四郎が銛撃ち(砲手)を務めるが、春日はその助手のような位置づけだ。ただし、小林の銛は最近不調であたらない。劇中、獲物ナシのことをドンガラと云っている。船員には木戸新太郎(キドシン)や青木富夫光沢でんすけなんかがいる。そして春日には、全編で8曲ぐらい唄う場面がある(申し訳ないが、私には「お富さん」以外はほとんど同じ曲に聞こえてしまいましたが)。

 また、船長の小林の娘が高田敏江でヒロイン。これが可愛い。当然ながら(?)春日とは相思相愛だが、お互いに気持ちは伝えられていない。その他の配役だと、捕鯨会社の部長が天草四郎で、その娘は冒頭の女子大生−高友子だ。勿論(?)、彼女も春日が好き。

 そして、会社の宴会シーンでは、柔道芸者と自称する明美京子とキドシンとの柔道対決がある。明美が着物を脱ぎだすと、裸像がモンタージュされる、なんていう自由な繋ぎは清順らしい、と思っていると、キドシンは巴投げで投げられて、襖にはヒト型の穴が空くという、コメディ演出なのだ。次に明美と春日の対決になるが、こちらは春日が勝って、明美は春日を好きになる、という寸法。さらに、春日は捕鯨船の中で暮らしているようで、海に落ちた(偽装自殺か?)小田切を助けて、彼女にも惚れられるという展開だ。というワケで、モテモテで逃げ回る春日を描いた部分も多い映画だが、正直、ほとんど彼の演技に関しては、素人の域を出ていないと云えるものだ。しかしそれは予想通りだし、これはそれで良い映画だろう。

 あと、清順らしさの萌芽、と思える場面をもう少し上げておくと、海から助けられた小田切のシーンにおける、ガラス戸を使った異なる空間の演出は、矢張り清順の好みがうかがえると思った。また、それ以上に、終盤の春日と高田が気持ちを伝えあった後に、唐突に、高、明美、小田切の3人が浜辺に寝ているショットを挿入する呼吸なんかも、後期の清順みたいな演出だと感じた。49分の中編だが、しかし、この時点で、清順の持つ資質(あるいは志向)を垣間見ることのできる楽しいミュージカルコメディだ。

(評価:★3)

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