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[コメント] 西住戦車長傳(1940/日)

軍部から押しつけられた企画を松竹は吉村に丸投げし、戦争は嫌いだとロケ現場の中国から帰ってきてしまった助監督の木下惠介を城戸四郎は見込みのある奴と褒めている。こういう事実を無視してフィルムと虚心に向かいあっても大したものは出てくるまい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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強調されるのはノンビリした上原謙の造形。自制の指示を無視して敵前へ偵察に出る部下を見送って「しょうがないなあ」なんて詠嘆は上原らしい(『有りがたうさん』そのものだし『歓呼の町』もこんなだった)。そしてもっぱら上官である当人が部下を差し置いて敵前視察を行うのだった(最期もこれで撃たれる)。いい上司になる簡単な方法を描いて閃きがある。本作観て、ああ上官はこういう人物なのかと思って入隊した二等兵は、現実との落差に絶望しただろう。

彼は一度だけ、まだまだ戦争は終わらないと語る。「新東亜建設を邪魔する第三国がある」磯野秋雄の部下がその国名を云おうとするのを制して云わせない。「判っていればいいんだ」。参戦前の配慮なんだろうか。

「土民」桑野通子は熊谷『上海陸戦隊』(39)のダンサー原節子のパクリだろうが、子供捨てて逃げるなんて扱いは更に酷い。五国協和など念頭にもないのだろう。この描写は駄目だと思った。ただ、上原射殺の件で、気絶から起き上がり執念で撃つ中国兵小藤田正一にフォーカスするのは、相手も必死に戦っていると示して公平。こういう描写は日活や東宝の「成功」した好戦映画に登場するのは記憶にない。

松竹が戦争映画なんか撮れるものかと云われた作品だったらしいが、記録フィルムを混ぜ、モノクロで煙が上がり、銃撃音の殺伐、ハモニカと雨の哀愁でもって、戦場は適当に再現されている。吉村は適当にこなしている。冒頭の宣誓文などは書かされたのだろう。

原作は菊池寛、讃歌は三好達治。♪もののふの誉れなり 大君の御楯となりて よしや身は野辺に晒すも 「君が代」みたいなものですな。

(評価:★2)

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