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[コメント] 殴られる彼奴(1924/米)

悲劇性と喜劇性が、ないまぜになっていて、うろたえてしまう。シーケンスの変わり目で、何度もピエロが笑いながら大きな球を回すカットが挿入されるのだが、その度に心がざわつく。
ゑぎ

 このような自虐・自嘲と屈折した(いやストレートな、かも知れない)メッセージ性が強烈だが、しかし、ヴィクトル・シェーストレムらしい技巧も高度に充実しており、全編目が釘付けになる。

 ピエロの回す球が地球儀に転換される、といったマッチカットから始まるが、技巧的には他にもディゾルブのマッチカットを何度かやる。それらは全て見事なものだ。例えば、地球儀の枠(輪)にピエロたちを座らせたカットから、サーカスの丸い舞台へのディゾルブでの転換。また、男爵マーク・マクダーモットが、プレゼントのネックレスを触る手のカットを映し、アイリスアウトしながら、ジョン・ギルバートが花飾りを持つ手にディゾルブする。そして、ピエロのロン・チェイニーから、科学者時代のロン・チェイニーへのディゾルブ繋ぎ。これは、男爵の現在時制での見た目と、フラッシュバック(過去の見た目)との繋ぎでもある。

 また、ヒロイン、伯爵の娘コンスエロ、華奢なノーマ・シアラーの無垢の造型が実に愛らしい。シアラーとギルバートのピクニックシーンなんかでは、この二人が、メチャクチャ可愛いのだ。例えば、サンドイッチを取り出しても、どちらも、お腹いっぱいと云い、キスし始める場面。食べ物には蟻がいっぱい。

 また、シアラーが、チェイニーのことを「HE」と呼ぶ(原題の「HE」の部分に呼応する)、手相を見てもらう場面。シアラーはチェイニーの言葉を冗談だと思い、顔を軽くスラップしてしまう。こゝの切なさもたまらない。

 そして、チェイニーを中心とするピエロ達の舞台芸の部分も目を瞠る造型だが、クライマックスのライオンの投入もよく出来てる。ライオンが部屋に入るまでを引っ張って、スリリングに見せるのが上手いし、テーブルをバリケードにしても、全く防御の役に立たず、飛び込まれて襲われるという演出。勿論、襲われている場面は見せないが、悲惨な状況が想像できてしまうのだ。

(評価:★4)

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