[コメント] 異端の鳥(2018/チェコスロバキア=ウクライナ)
映画を見終った人むけのレビューです。
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イェジー・コシンスキによる同名小説の映画化作品。原作は小説という形を取っていたが、著者の経験が色濃く出ていたようで、戦時中に起こった生々しい描写によって発禁処分を受けた作品でもある。
実際、これが小説だとしても、きつい描写が目白押しで、あらかじめそれが分かっていたから精神的にダメージ受けたくないから劇場には行かなかったくらい。 それは正解だったようだ。ビデオで観てさえかなり精神に来てた。劇場で観てたら半端な精神的ダメージ受けただろう。
この作品を称するに一番良い言葉は「痛み」だろう。例えばビデオパッケージには首だけ残して埋められた主人公の少年と、それを見つめる鳥が見られるが、これが実際に出てくるととんでもない痛みを与えられるシーンになってる。
本作の描写はかなりの部分が「痛み」の描写となっている。大部分は少年が受けている精神的肉体的な痛みなのは確かで、行く先々で厄介者扱いされて無体な労働を押しつけられたり殴られたりと言った描写も多数。
ただそれだけでなく、少年の方も時に応じて反撃したりもするが、それもえげつない方法で、時に主人を死に至らしめる事まであって、全般的に真っ黒な話になってる。 これが少年の方が耐えるだけってなら感情移入も出来るが、そうでもないあたりが本作が一筋縄にはいかないところだろう。精神的に逃げ場がないお陰で最初から最後までとにかくきつい。
そしてもう一点が、人が人を差別する構造。
少年はユダヤ人だから差別されて然るべき存在とされる。ポリティカルコレクトネスが進んできた今の目からすれば奇異な構造だが、これはヨーロッパでは普通である。ユダヤ人が自分たちのコロニーから出たとき、彼らはまともな人間として認められない。人間としての命だけは助けるが、それ以外はどんな差別をされても文句を言えない。しかもこれが極限状態になると命の危険まであるし、いつナチスに売られるかもしれないという恐怖もある。少年にとっては全方面から命が脅かされている状況なのだ。こんな状態だからこそ、生き延びるためにはどんなこともする。誰も信用しないし、ちょっとでも危ないと判断したら逃げる。場合によっては自分を殺そうとしている人間に対して先回りして殺す。こんな極限状態の中生きていかねばならない。
これを映画にするならば、幾重にもオブラートがかけられるのが普通だが、ここでは相当にオブラートが薄い。なるほどこの作品だったら、国によっては発禁になりかねない。下手すればこれ殺人の告白書なので、殺人者を野放しにしてることになりかねないから。
とにかく集中して観ると精神がごっそり持って行かれるため、本作は充分精神的余裕のあるときに観ることをお勧めする。精神的にきついからこそ評価される作品というのもあるのだ。
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