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[コメント] 熱愛者(1961/日)

仕方のない恋愛の顛末を哲学的かつ気障に考察するザ・中村真一郎とでも云うべきメロドラマ。九十度曲がる雨戸が強烈に印象に残る。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







岡田茉莉子は仕事に戻りたくなり、芥川比呂志の愛情だけでは物足りなくなった。序盤に、家庭と仕事と心が別々になるのが不安という科白があったが、ふたつの世界で棲み分ける難しさというのはあるだろう。哲学的な芥川と、陽気な姉の乙羽信子と、それぞれに調子を合わせるのは単純にたいへんだろう。「子供つくって女房は子育て、亭主は外で浮気、これが現代の理想」と伊藤雄之助は云う。芥川はこういうことができない人なのだろう。「昔の朗らかな君に戻ってくれ」「貴方の作り上げた空想の鍍金が剥げただけよ」。

しかし結局、芥川の敗因は姉の乙羽信子との同居を許してしまったことにあるのは外から見ると明らかだ。映画はこの姉を重要視しており、その素性を序盤はじらして明かさない。ふたりの関係を乙羽は、芥川は陰気、の一言で暴力的に整理してしまう。芥川の哲学的な恋愛は、こんな下世話な言葉に吹き飛んでしまった。しかし芥川は彼女を追い出そうとしない。最後は岡田は出て行って乙羽だけ屋敷に残っている。もしかして、そのままこの状態を続けるのではないだろうか。この余韻には面白味があった。

見処は序盤の恋する積極的な岡田で「別れてあげない」なんて科白回しの見事なこと、男にとっては夢のような体験。芥川が参ってしまうのはよおく判るが、そこでセックスの調和など滔々と語る人物像は滑稽だろう。あと、法師温泉ってとても良さそうな処だった。長寿館。

(評価:★3)

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