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[コメント] 征服されざる西部(1952/米)

傑作。もうファーストカット(クレジットバック)から、これは傑作に違いないと思わせる。画面中央に道。左右は傾斜地で全体として、すり鉢状に見える地形。左右の斜面には羊たちが散在する。
ゑぎ

 中央の道を奥から3騎が速歩(はやあし)でやって来る。南軍の制服。向かって左から、ジェームズ・アーネスロック・ハドソンロバート・ライアンだ。ライアンとハドソンは兄弟。アーネスが下馬して、沼にはまっている仔羊の方へ歩き出す。こゝまでワンカット。高めの固定ショットと思っていると緩やかにティルトダウンし、さらに、アーネスの動きに合わせて、パン及び移動する。クレーン撮影か。素晴らしい!

 もう良いショット、良い演出だけを時系列に列挙しよう。まず、3人がオースチンの町へ入ってすぐ、美女の乗る馬車を見留める場面。ライアンとヒロイン−ジュリー・アダムスの出会いの場面でもあるが、この馬車が停まる洋品店の前の道も緩やかな斜面(坂)になっている。こゝでのライアンとアダムスの唐突なアップの切り返しがいい。この2人だと、ライアンが町の名士たちとポーカーをする場面。ライアンとアダムスの特別な雰囲気に気がついたアダムスの夫−レイモンド・バーが、いきなりライアンをビンタする演出。ライアンは全くやり返すこともできず、おずおずと引き下がるしかないという屈辱のシーンだ。

 このあとライアンは、町外れでたむろする南軍敗残兵らの荒くれ者を率い、悪事を働くようになるのだが、ライアンの心情をほとんど描かず、行動でプロットを繋ぐという点がいい。また、集団の中にはダンディと呼ばれる若きデニス・ウィーバーがおり、彼が結構目立つ役割だ。最初にライアンが集団を扇動する場面での、彼のカリスマの発現も、いきなり感はあるが、亢奮させられる。

 アダムスに関しては、実は、序盤はそれほど綺麗に撮られていないと感じていたのだが、ライアンへの恋愛感情が亢進していくにつれて、どんどん美しく見えてくる、という描き方になっているように思う。その頂点は、2人が最初にキスするシーン、キスする前のソファでのアップショットだろう。他にも、その邸宅(レイモンド・バーとの屋敷)の中に飾ってある、アダムスの肖像画の存在についても書いておきたい。この肖像画の前で、ライアンは、彼女をテキサス一の女性にしたい、そのために、自分の帝国(エンパイア)を築くのだと何かに憑かれたように熱く語る。

 そして後半は、中盤消えていたハドソンが、兄のライアンに対峙するようになるという、ある意味、予想通りの展開だが、ライアンに殴られたハドソンが、テーブルを滑って向こうへ落ちるアクション演出がいい。あるいは、捕縛されたライアンに町の人々が暴動化して押し寄せる場面で、ハドソンがライアンを連行するショットが凄い緊張感のある画作りだ。終盤は、ハドソンに兄弟の父親−ジョン・マッキンタイアも加わってライアンと対決するという、血肉の争いになるのだが、エンディングは実に周到に処理して収束させる。いつもながらだが、ライアンのパラノイアックな造型(不敵な笑顔!)が一等素晴らしいけれど、この複雑な(ピカレスクな)キャラクターを全き主人公にして、コンパクトなラニングタイムに充足させるバッド・ベティカーの手腕は驚くべきものだ。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・兄弟の母親(マッキンタイアの妻)はフランセス・バヴィア

・ハドソンと幼馴染で彼が気のある女性にジュディス・ブラウン

・ライアンが市役所で相談する市長(?)フランクはトム・パワーズ

・ライアンが盗んだ牛を売る、ホセ・エスコバル将軍はルドルフォ・アコスタ

・若き鬼警部アイアンサイド(バー)と警部マクロード(ウィーバー)が、2人で同じ画面内に映っているショットがある。

(評価:★4)

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