[コメント] 悪魔とミス・ジョーンズ(1941/米)
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OPから背景で炎燃える悪魔のコバーンと、天使の輪を戴いたジーン・アーサー(このとき41歳、若作りの髪型)の対照、大富豪に訴訟しないでくれとあらかじめ詫びる辺り、相当に挑戦的。
デパートの所有者コバーンの首吊り人形使った労組への報復を誓い、コバーンは売場に自ら潜伏、覆面操作を開始するも、一文無しだろうと売場仲間のアーサーやスプリング・バイイントンに憐れまれる。富豪が大した変装もしないのに貧乏と疑われるのは、コバーンはアーサーたちには貧相に見える、というイロニーに違いない。そして屋上の秘密の組合集会に案内する。「あなたは仲間だと思ったのよ」でアーサーたちは組合員だったというギャグ。しかし、彼は仲間という直観は間違っていなかった。
売り子の覆面調査員ってのは現実にもあるのだろうか。コバーン復讐のための「最後の審判メモ」の反復がいいギャグで、いちいち客席にウケていた。秘書のS・Z・サコールの怪演、彼が連れてきてコバーンを蹴飛ばし続けるスティーブン・タイラーみたいな顔の娘もまた素晴らしい。売り場主任は本作の悪役なのだが、彼とて悪辣な印象の残る描写は別にない。
コニーアイランドはキートン映画で観たことがあるのと同じ風情で、男の水着も上半身があり、木製のシャワー室が並ぶ。周りが全員立っているなかで寝転ぶ四人という混雑を表すエコノミー描写が良好。コバーンの警察の別件逮捕(誰でもしている海水浴場隣接の歩道を海パン姿で歩いたこと及び公務執行妨害)に抗議して独立宣言唱えるロバート・カミングスが男前で素晴らしい。孤独に組合活動して夜は屋上に泊っている。デパート従業員25,000人中組合員は400人と語られる。狸寝入りで若いふたりの事情知るコバーン。
支配人から隠すために、ふたりで名簿喰ってしまうギャグは、シチュエーションが異なればシリアスなものだろう。アーサーの館内放送が大規模ストとデモに至る、というのは組織論としては大したことがなく、コメディの理想にとどまった。デモ中にコバーンが首吊り用の自分の人形渡されるのは、大笑いであると同時に彼の変化を象徴して素晴らしい。そしてコバーンが労使に挟まれる大笑いの交渉、バイイントンのセコい要求が素晴らしい。
組合の主張は、コバーンのような長期勤続者この製作者が赤狩りの毒蛾にかかったという話は聞かない。労使円満に収まり最後は豪華客船という収束。革命家には軟弱に見えるだろう。だからマルクスの手法ではないな。本作が日本劇場未公開に終わったのは、本邦の人権意識を後退させたに違いない。
私的ベストショットは収束でコバーンの正体知って全員が倒れるショット。客席爆笑だった。あと、アーサーの出鱈目ないいつけ通り、靴箱に左右セットで靴が入っているか全部大人しくチェックし続けるコバーンも可愛くていい。
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